「華を織る」
03
「――あぶない」
ぐっと強い力で襟首をひっ捕まれると、船内へと引っ張り込まれた。
「、」
驚きながら振り返ると、目の前で細められていたのは鮮やかな翠色の瞳。
光射す明るい海と同色の瞳に見つめられ、少年は一瞬呆然とその顔を見上げた後、慌てて姿勢を正す。
「舞剣様、」
「誘われるなよ?」
「え?」
「海は仲間を欲しがっている。いつでも手ぐすね引いて待ち構えているぞ」
「‥‥すみません」
「でも、ま」
少年の頭に手を置くと、舞剣・蒼川は愉しげにその髪を撫でた。
「お前は良い船乗りになりそうだ」
「え?本当ですか?」
ぱっと顔を上げた少年に、蒼川は笑い掛ける。
「海にだって選ぶ権利はある。ああやって誘われるのが良い証拠さ。――ただ、気をつけろ。気を抜けば途端に魅入られるぞ」
「はいっ」
嬉しそうに元気良く頷く少年の頭をもう一度荒っぽく撫でると、蒼川は「舞剣!」と呼ぶ副官の方へと踵を返した。
「どうした?」
「十時の方角に船団が見えるそうです」
「どこの船だ」
副官に尋ねながら、蒼川は頭上を見上げた。
帆柱の上に設えた物見台にいる遠目の利く船員に向かって、大声を張り上げる。「――旗は見えるか?」
「ちょっと待ってください、今、もう少しで‥‥あ、見えました!」
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