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「華を織る」
01 ◆1◆
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 不意に、床が大きく競り上がった。
「、」
 足裏を持ち上げられる様な感覚に、少年は思わず腰高に巡らされた縁を握り締める。
 しかし、上昇感はほんの一瞬。僅かな停止の後、再び身体はぐんと引きづられる様に沈み込んだ。
 空中に取り残された髪が、一拍遅れて少年の滑らかな額にふわりと落ちる。
「‥‥」
 風に靡く前髪を邪魔だとでも言いたげに無造作にかき上げると、少年は再び海原へと視線を戻した。


 ‥‥少年が乗り込んでいるのは、東雲国の警備船。
 歴代の流麗な双剣使いの中でも「最も海に愛された」と人々から称される事となる、四剣が一人・舞剣蒼川の指揮する船団である。
 もともと活気のある東雲船団ではあるが、これが今期初の航海であると同時に少年を始めとする東の剣の候補生も数人乗り込んでいる事から、浮き立つ興奮と瑞々しい緊張が船内の空気を更に活気付かせていた。


「さあ動け動け!坊主達!」
「ほら早く!風が逃げちまうぞっ」
 四国中にその名を轟かす東の剣の候補生とは言え船に乗り込めばただの若輩者、年長者から言い遣った雑用に船内を駆け回っていた少年達であったが、帆を上げた船が順調に港を後にし、やがて滑る様に大海原へと進み出した辺りで、漸く海を眺める暇を与えられたのであった。


「‥‥」
 天気は晴朗であり初航海としては上々の滑り出しであったが、それでも沖合い出た頃から波の動きは幾らか大きくなってきた。
 緩慢に繰り返される規則的な上下動と、不意打ちの様に訪れるやや大きめの波。掴み所の無い足下の動きに、少年は些か戸惑う。
 これまでに船に乗った事は幾度かあったが、暢気に運ばれるだけの「客」と実際に船を動かす「船員」とでは、全てが異なっていた。


 しかし身体ごと浮き上がる様な感覚は、決して不快な心地では無い。
 早々に顔面を蒼白にし船酔いにへたり込む仲間もいる中、少年は程好く順応している様だった。

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あきゅろす。
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