「華を織る」
07
「もしかして、期待した?」
「し、してませんっ!!なぜ私が期待なんてしないといけないんですかっ!」
「分かった分かった、そんなに大声を出したら図書館の方へ聞こえるぞ?」
「、」
桜木のからかい口調の指摘に慌てて口を閉ざす麻乃。その様子に桜木は内心呟く――まったく蒼川の奴、俺の幼馴染を泣かすんじゃねえぞ?
「じゃ、俺は帰るから」
「あ、はい、宮古殿によろしくお伝えください」
「蒼川には?『お待ちしております』って言っておこうか?」
「、ですからっ!!」
「はいはい、じゃあな」
「桜木!!」
言い募る麻乃を笑いながらあしらうと、本を抱えた桜木は手を振りながら掃き出し窓から姿を消した。
「‥‥もう、あの人は」
からかうだけからかって去って行った幼馴染の後姿を見送りながら、麻乃は小さく溜息をついた。
その頬を裏庭を渡って来た風がそよりと通り過ぎ、柔らかく亜麻色の髪を揺らして行く。
暖かい‥‥風も水も、温む季節がやって来たのだ。
「‥‥」
はためく髪をそっと手で押さえると、麻乃は薄紫の瞳を都城の城壁の方へと向けた。
その方向に広がるのは、四国一の規模を誇る城下の賑わい。
そしてその東側、天然の防壁である断崖絶壁の向こう側では、澄み渡った紺碧の海が、男達を今か今かと待ち受けている――
[*前][次#]
[戻る]
無料HPエムペ!