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「華を織る」
06

「その護人に神が剣を授ける、っていう話はあるのか?しかもその剣が砕けちまったって言う話は」
 しかし桜木の勢い込んだ期待に対し、麻乃は申し訳無さそうに首を横に振るのみだった。
「申し訳ありません、私もそこまでは‥‥」
「ああ‥‥、まあ、そうだよな」
 いくら優秀な図書館司書とは言え麻乃の専門は医薬方面である、伝承や神話といった類については門外漢なのだろう。
 それでも桜木の気落ちを表情から読み取ったらしく、麻乃は分かりましたと頷いた。


「神話に詳しい司書がいますから聞いてみます。この図書館には各地の伝承を集めた資料もありますから、そちらも調べてみましょう」
「頼めるかな。急ぎじゃない、手の空いた時で良いから」
「ええ、他でも無い貴方のご依頼ですからね。――ところで織子の話は、今、詰所で流行っているのですか?」
「いいや。なぜ?」
「宮古殿がこの本を予約されたものですから」


 言いながら立ち上がった麻乃は書棚から一冊の本を取り出すと、桜木へと差し出した。
「これ、良ければお渡しして頂けますか?」
「『天の織子』‥‥?あいつ、なんだってまたこんな本を」
「よろしくお願いしますね」
「あ、この本、宮古の次に俺が読んでも良い?」
「ええ、予約は入っていませんので、構いませんよ」


 にっこりと微笑んだ麻乃に桜木はもう一度ありがとうと頭を下げかけ、しかし何かに気が付いた様に急に顔を上げた。
「――あ、蒼川」
「、え?」
 それまでの落ち着いた振る舞いが嘘の様にはっと背後の掃出窓を振り返る麻乃に、ああ違うと桜木は顔の前で手を振る。
「‥‥が、後で寄るって」
「あ、‥‥ああ、そうですか‥‥驚かさないで下さい」
 浮かべられた安堵の表情の中にほんの微かに落胆の気配を見付け、桜木はにやりと麻乃の顔を見詰めた。

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