[携帯モード] [URL送信]

「華を織る」
04


「‥‥」
――言ってしまえばよろしいのに。
 ほんの一瞬だけ浮かんだ桜木の苦い表情へ向けて、麻乃は心の内でそっと呟く。
 桜木から聞いた『華剣』と亜紀の初対面は確かに最悪だったのだろう、しかし『桜木』と亜紀の関係は朗らかに和やかに進行中なのだ。
 このまま順調に仲が深くなれば益々言い出し辛くなるだろうし、やがて取り返しのつかない事態に陥いる可能性もある。


 ならば今のうちに正直に打ち明けてしまった方が良いのではないだろうか。
 きっと亜紀は驚き傷つくだろう、騙されていたと怒るかもしれないし、申し訳無いと自責の念にかられるかもしれない。
 しかし、その傷も今のうちならば最小限で済むのではないか‥‥?




「――ところで麻乃、『織子』の話について聞きたいんだけど、」
 しかし、自分と亜紀の行く末について麻乃が熟考しているとは露にも思わない桜木は、思い出したばかりにこの部屋を訪れた用件を話し始めた。
「織子?あの、神話の『織子』ですか?」
 麻乃も自分の思考を一時中断すると、司書の顔を取り戻すと桜木へと向き直る。
「そう、その織子。ちょっと詳しく知りたい事があって‥‥」




『少年を護るよう、幼馴染は神から命じられた』
『農夫だったにも関わらず、実際よく少年を護ったらしい』




――護人、か。
 麻乃へ尋ねながら桜木の頭を過ぎったのは、数日前に矢崎から聞いた『もう一つの神話』だった。
 農夫だった言う織子の幼馴染。彼は手に馴染んだ命を育てる為の道具を手放すと、大事な人を護る為に命を奪う武器を手にしたのだ。
 しかし神から賜りし武器は、素朴な彼の手には有り余る存在だった‥‥それこそ矢崎の言う『神からの授かり物とは言え、それを操るのは所詮人間、万能ではない』である。
 皮肉と言えば皮肉な、しかし悲劇と言えばこれ以上に無い悲劇。

[*前][次#]

17/52ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!