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「華を織る」
03

◆◆◆◆◆


「――野盗討伐、御苦労様でした、桜木」
 いつもの様に裏庭に面した掃き出し窓から顔を覗かせた桜木に、同僚と交代を終えて部屋に戻って来たばかりの麻乃は、労いの言葉をもって幼馴染を出迎えた。
「宮古と沢渡が活躍してくれて、随分と早く片付いたよ。これが予想以上の美人に仕上がったものだから、うちの連中が騒いで騒いで」
「お二人とも女官服が似合いそうですからね」
「あと、矢崎って言う旅商人にも偶然出会えてさ。これが結構面白い奴で‥‥」


 華剣である桜木は守秘義務が発生する事も少くなく、幼馴染である麻乃にも任務の内容を殆ど話す事が出来ない。
 その代わりに行く先々での風俗や偶発的な珍事などを面白おかしく語って聞かせる事が多く、事情を十分に承知している麻乃は、相槌を打ちながら幼馴染の楽しい語りに耳を傾けるのであった。


「折角だから亜紀も貴方の話を聞ければよかったんですが、」
 あの子は外の話を聞きたがっていましたからね、と麻乃は残念そうに息を吐く。「――生憎、今日は帝妃様へのお届けがあるそうで、早めに帰ってしまったのですよ」
「‥‥そうか」


 ではあれは、私邸宮へ伺った後だったのか。
 花壇の前にしゃがみ込んだ無防備な後ろ姿を思い出しながら、桜木は頷く。「――さっき見掛けたよ。庭園で灯火花を眺めていた」
「そう、ですか」


 ‥‥見掛けたのならば、話し掛けてあげれば喜んだのに。
 言いかけて、ふと麻乃は言葉を止める。
 そういえば今日は定例会議の日、いつもは動き易さ重視の身軽な格好をしている桜木も、この日ばかりは鬼の副官によって『華剣』に仕立て上げられたのだろう。
 己の正体が亜紀にばれる事を何より恐れる幼馴染は、遠くから眺める事しか出来なかったに違いない。


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