「華を織る」
02
俺は今。
『華剣』だ。
「‥‥」
正体を偽り続けている桜木に出来る事は、もはや二つだけだった。
即刻庭園を立ち去るか、もしくは亜紀に気付かれない距離を保ち気配を消すか。
遠くからでも良いから、せめてその姿を見ていたい‥‥後者を選択した桜木は、亜紀が傍らを通り過ぎて行くまで、密偵宛らに木陰でじっと息を潜めていたのである。
「何をやっているんだかなあ‥‥」
これじゃあただの不審人物だと、桜木は己の行動を振り返りながら苦笑する。
そのままゆっくりと花壇の前へと歩み寄ると、屈み込み灯火草の花をそっと撫でた。
その小さくも懸命に空へと向かい咲く姿は、どことなく亜紀に似ていて。
「‥‥本当に何をやっているんだ、俺は」
絞り出す様に吐き出された桜木の自嘲気味のは苦く硬く、誰に届く事も無く花々の上に降り積もっていった。
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