[携帯モード] [URL送信]

「華を織る」
01 ◆3◆
◆3◆


「‥‥‥‥」
 こつこつと杖の音を響かせながら足早に立ち去って行く亜紀を木陰から眺めていた桜木は、その小柄な後ろ姿が完全に視界から消えたのを確認した後、止めていた息を深々と吐き出した。
 亜紀が再び戻ってくる気配の無い事を確認した後、ゆっくりと散策路へと降り立つ。
「‥‥気付かれなかったみたいだな」
 もう一度、今度は安堵の息を吐くと、桜木はやれやれと前髪をかきあげた。


 ‥‥蒼川との待ち合わせの前に図書館へ立ち寄る予定だった桜木は、会議で着用した堅苦しい礼服を着替える為に、少し早目に詰所を退出していた。
 そして定例会議の熱気を抜こうと寄り道をした庭園内で、視界の向こうに思いがけず亜紀の姿を見掛けたのである。
 肩から掛けた無染の長布を風にそよがせながら花壇の前に座り込む背中に、思わず頬を和ませながら声を掛けようとした桜木だったのだが。




 そう。
 声を、掛けようと思ったのだ。
『ただいま、亜紀』と。
『お土産があるんだ』と。
 愛しい小柄な背中へ近付こうと、一歩踏み出しかけたのだ。




「‥‥」
 しかしその瞬間、桜木の視界の隅を掠めたのは、自身の纏う礼服の鮮やかな裾飾りだった。
 鋲を打った剣士用の長靴、腰に佩いた愛用の長剣、礼服に仕込まれた木香の薫り。



[*前][次#]

14/52ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!