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「華を織る」
05


 憧れの人に手を引いて貰ったと言う動揺と。
 道案内をさせてしまったと言う畏れと。
 そして、臆面も無く自分の慕情を晒してしまった恥ずかしさ。
 総てが綯交ぜとなって亜紀を襲い、表情からも声からも動作からも従来の伸びやかさを奪い去ってしまったのだ。
 残されたのはただひたすら非礼を詫びるだけの、見苦しく矮小な態度だけだった。


 ‥‥かと言って今更親しげに振る舞う事は出来ないし、謝罪もお門違いである。
 再び彼の人に出会える偶然があったとしても、嵐が過ぎ去るのを待つ小動物の様に身を固くして俯いてしまうのだろう。
「‥‥俺が間違えたのがいけなかったんだ」
 よりによって四剣が一人・華剣を見回りの剣士と勘違いし気安く声を掛け、あまつさえ道案内まで頼んでしまった自分自身が‥‥


「‥‥」
 再び、亜紀は大きな溜息を吐く。
 それでもまた、俺はこの場所に来てしまっている‥‥『灯火草を見たい』という言い訳まで用意して。
 華剣に会える偶然を期待しながらも、それと同時に二度と華剣の前に姿を現したくないという思いもある。
 針は常にゆらゆらと振り続け安定せず、あれから随分と過ぎた今でも亜紀は自身の気持ちを掴めずにいた。


「――灯火草、か」
 華剣が手の平へと綴った文字を思い出しながら、亜紀はそっとその指を花の方へと伸ばす。


― ともしびそう ―


 辿った硬い指先は迷い無く快活に動き、その人となりが垣間見えた。
「どんな声だったんだろうな‥‥」
 視覚からは情報が得られない亜紀にとって、聴覚への情報つまり『声』は相対する人を見極める上で大変貴重なものだった。
 指先からもある程度は伝わって来たが、やはり声を聞いてみたかった‥‥憧れの華剣の声を、一度で良いから。


「華剣様の声、」
 自分好みの声だと嬉しいな、と亜紀は小さく笑う。あまり高くなく少し低め。きっぱりと明るく快活で、どこか悪戯っぽさも残していて‥‥


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