「華を織る」
04
「――『好きだったから』、かあ」
庭園の奥に設えられた灯火草の花壇の前にしゃがみ込みながら、亜紀は先程聞いた帝妃の言葉を呟いていた。
遥か昔から寒夜の街道を行く旅人の足元を照らし続けていたこの花も、暖かさが増すこの時期になると徐々に姿を消して行く。
手入れの行き届いた都城の花壇も例外ではなく、辺りに漂う甘い香りは前回よりも幾らか薄らいでいた。
それでも終りを全うするかの様な穏やかな香りは、複雑に波打つ亜紀の心を和ませてくれる。
「そうだよな、いきなり態度を変えたりしたら、悪いよな‥‥」
しゃがみ込んだまま小さな声で灯火草に話し掛けながら、亜紀は一つ大きな溜息を吐く。
‥‥あの時。
手を引いてくれていた剣士が華剣だと、気付いたあの時。
目の前にいる人が、幼い頃から憧れ続けていた当人であるという事実に激しく動揺した亜紀は、まさしく『態度を変え』てしまっていたのだった。
今にして思えば自分の態度が如何に頑なであり、そして『華剣』という存在に対し過剰反応をしてしまっていたのかがよく分かる。
大きく温かな手を持つ剣士の道案内を亜紀は心底楽しんでいたし、剣士――華剣もまた、道案内をしながらとても楽しげな様子だった。それは亜紀の思い込みや自惚れでは無いはずだ。
寒空の下、風邪をおしてまで付き合ってくれた華剣に、しかし亜紀は一気に手の平を返すような態度に出てしまったのである。
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