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「華を織る」
02


 ――殿下に何かあったのかな?
 一瞬、尋ねてみようかと思った亜紀だったのだが、結局は無言を保つ事にした。
 随分と敷居の低い天帝一家とは言え東雲を統べる唯一無二の家柄、一般庶民なぞは考えも付かない複雑な背景が控えていそうで気が引けたのである。
 ‥‥その実態は、次男が海賊退治に同行する事を易々と了承した天帝に対し、些か不安感を拭い去れない帝妃の母心の愚痴であるとは、流石の亜紀も想像出来ない。


「――あ、ところでねえ亜紀、図書館の方はどうかしら?居心地は良い?」
 気を取り直すように殊更明るい声を出すと、帝妃は亜紀の方へと身を乗り出した。
 亜紀も又努めて朗らかに笑うと、元気良く頷いてみせる。
「ええ、とても良くしてもらってます。担当の司書様が色々と手伝ってくれて」
「あの図書館には私の師匠がいるから、心置き無く使ってね」



 帝妃が城下の出身者であり、国立図書館で司書として勤務中に見初められたと言う話は、国民皆が知っている。
 それまで帝妃となる人は各文官長の娘達の中から選ばれるのが通例となっていただけに、天帝が――当時はまだ皇子だったが――分厚い本を抱えた少女を連れてきた日には、自由主義を重んじる東雲とは言えども都城内は大騒ぎになったらしい。


 ‥‥身分違い。


「‥‥怖くなかったですか?」
「え?」
「っ、あ、いえ、何でも」
 無意識のうちに心に湧いた疑問を呟いてしまっていたらしい、帝妃の不思議そうな声に亜紀は慌てて首を横に振った。
「怖いって、‥‥ああ、陛下と一緒になった事?」
「ええ、まあ‥‥あの、すみません、立ち入った事をお聞きしてしまってっ」
「怖かったわよう、そりゃ」





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あきゅろす。
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