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「華を織る」
01 ◆2◆
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「ようやく、暖かくなってきたわね」
 手ずから淹れた翠茶を亜紀に勧めながら、帝妃は小さく息を吐いた。「――いつまで経っても寒いままだから、ちょっと心配しちゃったわ」
「ええ、今年は気温の上がるのが遅かったですからね」
 礼を述べながら、亜紀は勧められた茶碗を手に取る。
 窓の外に広がる帝妃が丹精した庭の木々からは微かながらも若葉の匂いがし、亜紀にも一気に芽吹いてゆく植物の気配が感じ取れた。


「急に暖かくなったおかげで、店に並べてある反物も一気に薄物に取り替えなくてはいけなくなって、皆大忙しです。‥‥良い香りですね、この翠茶」
「ありがとう、淹れる時にちょっとしたこつがあるの。‥‥昨年は酷暑の上に大きな嵐も来たでしょう?西風は竜巻の被害にあったし、南波の船も幾つか沈んでいたし。何だか変な感じねえ」
「ええ。今年はあまり暑くならないと良いんですけど」


 良い気候になって欲しいですね。
 言いながらもう一口翠茶を飲んだ亜紀は、そこで帝妃から反応が返って来ない事に気が付いた。
 そっと気配を窺ってみるが、どうやら視線は亜紀から外れてあらぬ方を向いているようである。
「帝妃様?」
「――え?‥‥ああ、ごめんなさい、亜紀」
 亜紀の呼び掛けに我に返ったらしい、帝妃は謝罪の言葉を口にすると、小さく苦笑した。


「あの、何か?」
「ううん、大した事じゃ無いのよ。‥‥ただね、男の子って急に大人になるのねえ、って思って」
「大人、ですか」
「いつまでも子供だと思っていちゃ駄目なのよね、この手を離れる時は必ず来る。――分かってはいたんだけど」
「‥‥」
 独り言めいた帝妃の言葉に、亜紀は黙って頷く事で応える。





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