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「華を織る」
04


「しかし毎年毎年、よくもまあ懲りずにやって来るものですな」
 外交担当の長である壮年の文官が、溜息混じりに声を上げる。
「奴等、海賊とは言え南方大陸沿岸を根城にする漁師でもありますからなあ。彼の国にも何度も苦情を述べていますが、善処しますの一点張り。かと言って、此方から征伐に向かえばやれ侵略だと大騒ぎになりますし」
「なあに、今年も奴等がこの国に近付けぬ様、我々が目を光らせて参りますよ」


 任せてくださいとばかりに微笑む蒼川に対し、外交長はよろしく頼むと軽く頭を下げる。
「南方大陸は巨大な国だ。我が国と南波が連合しても到底敵わぬ。それ故なかなか強く言いづらくてなあ‥‥申し訳無い」
「いいえ、外交長が謝る事ではありませんよ、頭をお上げ下さい」
「舞剣の言う通りだ、外交長。四国一とは言え他大陸から較べれば小国の東雲を、諸外国から呑まれぬ様に良くやってくれているではないか」


 心苦し気な表情を浮かべている外交長へと労いの言葉を掛けた天帝は、再び蒼川へと向き直った。
「ときに舞剣、候補生達の様子はどうだろう。今年も海へと連れて行くつもりか?」
「はい、私が預かった者は連れて行く予定です。ただ、」
「全員、連れて行くんだな?」
「‥‥陛下、」
 思わず目を見張る蒼川の呼び掛けに対し、しかし天帝は当然とばかりに言葉を続ける。


「船上勤務は、実際に船に乗らない事には向き不向きは判別出来ない。今年も例年通り全員連れて行き、様子を見る‥‥と言う事で良いのだな?舞剣」
「‥‥陛下のおっしゃる通りに」
 駄目押しをするかの様に滔々と言い含められ、流石の蒼川も渋々ながらに頷いた。


「‥‥と、言う事は?」
「‥‥と、言う事だよね?」
 誰にも聞かれない様に小さく囁き合った桜木と清水は、思わず顔を見合わせる――つまり、身分を偽り候補生に潜り込んだ天帝自身の次男も連れて行け、と言う事か。



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