[携帯モード] [URL送信]

「華を織る」
03


 ‥‥確かに、と宮古は思う。
 虹と言う人物は、確かに抗い難い魅力を持つ人だった。
 人目を惹く流麗な立ち姿、不思議な説得力を持つ声、好感を抱かずにはいられない表情。
 先の見えない閉塞感に国中が包まれつつある中に、颯爽と現れた聡明な若き将軍である。現状に不安を抱く人々が望みを託したくなるのは当然の事だろう。


 生まれつき備わっている彼本来の魅力と、それを最大限に生かし得る能力、そして何事にも動じず笑顔を浮かべる胆力。
 今はまだ一将軍に過ぎないが、やがて彼の一言で西風中の人間が動く日も来るのかも知れない。
 先代の元帥が強大な力で国を御したのに対し、虹は人心を掴む事で国を動かそうとしている。
 『恐ろしい』とはこの事だったのか‥‥心の中で呟く宮古であった。


「――取りあえず、玉城は暫くの間、警備を強化する事にしましょうか」
 玉城の警備を担当する清水が、眼鏡の奥の瞳を思案気に細めながら天帝を見上げる。
「そうしてくれ静剣・清水。直ぐに動きは無いとは思うが、念の為に」
「はい、直ちに。取り越し苦労で終われば良いのですが」
「ああ。豪剣・樫山、平原地帯の巡回も念を入れてくれ」
「はっ」
 短く答えた樫山は、剣士の見本の様な無駄の無い一礼を返す。


「西風の救世主が、東雲の救世主にもなるとは限らないからな‥‥」
 独り言めいた口調で呟いた天帝は、数瞬思いに耽る様に窓の外へと目を遣った後、ところでと改まった声を上げた。
「舞剣・蒼川、海の方はどうなっている?既に出港の準備に入っていると聞いたが」
「はい、補給もあらかた終わりましたし、数日中には帆を上げられる状態です」
 首元で結わえた銀髪を背中へと片手で跳ね上げながら、蒼川は緑色の瞳を愉しげに瞬かせる。「――水も随分と温んで来ましたからね、奴等もうずうずし始める頃でしょう」


[*前][次#]

3/52ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!