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「華を織る」
03


「荷馬車は置いていきな、お嬢さん達」
 やがて首領らしき大柄な男が一歩、仲間達の前へと足を踏み出した。
「‥‥これはただの絹織物です。金銭的価値はあまりな」
「おぉっと、嘘はいけないなぁ?」
 表情を固くしながらも弁解しかけた三重の言葉を、男は勝ち誇った様に遮った。
「お嬢さん、あんた達が北雪の宝玉を隠し持っている事ぐらい、俺達はちゃぁんと分かっているのさ」
「っ、」


 男のからかう様な台詞に、三重は凍り付いた表情を浮かべると、鋭く息を吸い込む。
 そんな三重の所作に確信を深めたらしい、取り囲んだ野盗達はじりっと包囲の幅を狭め出した。
「おや、驚いているのかい?なあに、ちょいと昨夜の内緒話を小耳に挟んでね。‥‥道連れを先に行かせちまったのが運の別れ道だったようだな」
「‥‥」
「ああ、そんなに怖い顔で睨まないでくれ。可愛い顔が台無しじゃねえか」


 言いながら三重を値踏みする様に無遠慮な視線で舐め回すと、男は満足気に笑みを一層深くする。「――それとも何かい?荷馬車共々、お嬢さん達も一緒に来るのかい?」
「ははあ、そりゃあ良い考えだ」
「ああ、これだけの別嬪だ、かなりの値がつくぞ」
「中売人に引き渡すまでは、俺達ともよろしくやるって事でなあ?」
「そりゃあ良い、仲良くやろうじゃないか、お嬢さん達」


 事の成行を見守っていた野盗達の中から、一斉に下卑た笑いが起こる。
「‥‥中売人‥‥西風の?」
 態度こそ強気だが心の中の恐怖心は拭い切れないのか、幾分低く掠れた声で三重は囁く様に尋ねた。
 その『西風』という一言に、首領の男は感心した様に片眉を持ち上げる。
「ほぉう?城下の箱入りお嬢さんにしては物知りだねえ。‥‥まあ良い、ばれているんなら尚更だ」


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あきゅろす。
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