[携帯モード] [URL送信]

「華を織る」
02




 ‥‥響いていた、筈だったのだが。




「、」
 突然、三重がはっとした様に顔を上げると、再び荷馬車を急停止させた。
 そのまま伸び上がる様に視線を転じると、崖上の木立を見透かすように目を凝らす。
「‥‥」
 どうした事かと問う様に身動いだ姉の肩を毛布越しに強く掴むと、屈み込んだ三重は小さな声で囁く。
「姉さん、そこの木陰に人がいたような‥‥」
 言いかけた三重は、しかし総てを言い切る前にその口を閉じざるを得なかった。


「――動くな」
「っ、」
 何処から湧いて出たのか、気付いた時には荷馬車の進行方向を数人の男によって塞がれていたのである。
 慌てて背後を振り返るも、同じ様に男達が取り囲むのみ。
 降り仰いだ左右の木立が風も無く揺れている事から、其処にも幾人かが隠れている事が見て取れる。


 身に纏う簡素な服装から、男達は山小屋に住む木こりと思えなくもなかったが、しかしその手に掴む得物が斧では無く、剣や槍である事が彼等の正体を明かしていた。
 不遜な立ち姿に狡猾な瞳、人として大切な何かを自ら崩してしまった様な、危険で荒んだ気配を纏う男達。

 今や、遥か都城までにも噂の届いている野盗達に、姉妹と荷馬車はぐるりと周囲を包囲されてしまっていたのである。


「‥‥」
 無言のまま強く口を引き結ぶと、三重は素早く姉の頭を膝の上から馭者台に移し変えた。
 そのまま姉を背後に庇う様に立ち上がると、拳を強く握り締め男達を大きな瞳で睨み付ける。
「おやおや?勇敢なお嬢さんだ」
 あくまでも屈しない姿勢を見せる三重の気丈な振舞いに、しかし前後を埋めていた男達は、にやにやと嫌な笑みを浮かべるだけだった。
 最初から怯えてしまい唯々諾々と従われるよりも、幾らか抵抗される相手の方が却って加虐心を煽られるらしい。



[*前][次#]

19/53ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!