[携帯モード] [URL送信]

「華を織る」
01 ◆4◆
◆4◆


 それまでゆっくりと、しかし着実に進んでいた荷馬車の動きが、ふいに止まった。
「‥‥」
 手綱を握っている三重は、その可愛らしい顔に似つかわしく無い険しい表情を浮かべると、今から自分達が進まなくてはならない道を用心深く見つめる。
 両側を切り立った崖と生い茂る木立に挟まれた狭い山道は、先程矢崎が懸念していた箇所だった。


 木々の間に身を隠しやすい上に、前後を塞いでしまえば身動きの取れなくなる道は、確かに野盗が襲撃に好みそうな立地ではある。
 しかし峠の奥深くならいざ知らず、宿場町近くにまで降りて来ている場所であるならば、矢崎も言っていた様に心配には値しないと思われた。
「‥‥」
 再び慎重な様子で崖や木立を眺めた後、膝の上に頭を預けている姉・八重の肩にそっと手を乗せると、やがて三重は意を決したように荷馬車を走らせ始めた。




 既に傾き始めていた陽射しは、木立を透かして橙色の明かりを二人の上に投げ掛ける。
 幻想的に柔らかな黄昏の光は人の心を緩やかに和ます一方で、その手元や視界を巧妙に眩ます恐ろしさも秘めていた。
 その事を熟知しているのか、はたまた姉の身を思い図ってか、三重は殊更慎重に荷馬車を進めて行く。
 細く長く続いてゆく山道には、荷馬車が立てる音だけが響いていた。





[*前][次#]

18/53ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!