「華を織る」
05
手馴れた様子の三重の姿に頷きつつも、矢崎はまだ心配そうな面持ちで、帽子の鍔を跳ね上げると八重の方を覗き込んでいる。
馭者台に横たわった姉の身体に毛布を深く――まるで矢崎の視線から庇うように――掛け直すと、三重は安心させるように頷いた。
「暫くこのまま横になっていれば、持ち直すと思います」
「そうか。じゃあ、速度を遅くしてゆっくり進んで行こう」
頷き返すと自分の荷馬車へ戻ろうとする矢崎の背中へ、あの、と三重は声を掛けた。
「あの、矢崎様。皆様は先に宿場町まで。私達は後から参りますので」
「え?しかし嬢さん、」
「難所はもう抜けましたし、野盗の危険もほとんど無いのですよね?矢崎様はあの町でも商いがあるとおっしゃっていましたし、どうかお先に」
「‥‥」
確かに此処まで来れば、後はなだらかに続く下り坂ばかりである。途中、両側を切り立った崖に囲まれた道もあるにはあるのだが、麓に近い為に過去野盗が出た事は無かった。
三重の言う通り、日のある内に商いを済ませてしまいたいという想いもある。
「本当に二人だけで大丈夫かい?」
「はい、ご心配なさらず」
「じゃあ、‥‥一足先に行っているから。あの町には宿屋は一軒しかないから、着いたらすぐに顔を出してくれ」
「分かりました」
深く頷く三重に、矢崎も心を決めたらしい。姉妹の馬の首を労う様に優しく撫でた後、自分達の荷馬車へと戻って行く。
「お先に行かせて頂きますね、嬢様方!!」
「夜は一緒に一杯やりましょう!」
「あ、お前、抜け駆けは許さねえぞっ」
「だから煩い!お前達っ!」
「はい、皆様ありがとうございます!」
賑やかに去って行く荷馬車の集団を手を振って見送った後、三重も膝の上の八重の肩にそっと手を当てながら、ゆっくりと自身の荷馬車を走らせ始めた。
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