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「華を織る」
03

「まるで自警団のようですね。‥‥ただし有料の」
 苦笑混じりの些か呆れた様な顔で言う三重に、しかし矢崎は満更冗談でも無さそうな表情で、その通りと頷いた。
「ああ全くだ。近くの宿場町からも地代を取る代わりに、縄張り内には怪しい奴等は入れさせない。宿場の住人も眉をひそめつつも、旅人には通行料の存在をさりげ無く教える。互いに持ちつ持たれつの関係、ってやつさ。――しかし、この峠は違う」
 旦那ぁ、と上がった若者の声に矢崎は頷く。どうやら彼等の荷馬車の点検も終わりに近付いたらしい。


「‥‥もともと野盗のいなかった峠だったんだが、最近何やら住み着いたみたいでな。他の野盗のように地代だ通行料だと金は取らないが、その代わり弱者と見るや必ず襲ってくる。交渉しようにも麓へは全く降りてこないし住処も不明だから、こちらからは手の付けようが無い。――なあ嬢さん、俺はな、奴等はあっちから来たんじゃないかって思っているんだよ」
「あっち?‥‥西風から流れてきた、という事ですか?」
「ああ。あの国は前の元帥が暗殺されてからあまり状態が良くないからな。犯罪も格段に増えているって話だ。誰か良い指導者が出て来てくれれば、落ち着くと思うんだが‥‥ああ分かった分かった!今行く!」


 旦那!最終点検お願いします!と急かすような若者の声に矢崎は話を切り上げると、それじゃあと二人へ手を挙げた後、その側を離れていく。
「‥‥」
 やがて手際良く最終点検を始めた矢崎達の背中を眺めながら、三重と八重はそっと視線を交わし合い、小さく頷いた。






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あきゅろす。
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