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「華を織る」
01 ◆3◆
◆3◆


「‥‥ちょいと、矢崎の旦那、」
 感心したような呆れたような判別に難しい声で雇主を呼びながら、荷馬車点検の手を止めずに若者は小さく苦笑した。
 その視線の先には、己の荷馬車の横で寄り添う八重と三重の姉妹がいる。
「これまた綺麗処を見付けてきたもんで。隅に置けませんねえ、旦那」
「おいおい、変な想像するなよ。単なる人助けさ」


 どうやら早合点してしまったらしい部下の言葉に、矢崎はやれやれと帽子の鍔を持ち上げながら訂正を試みる。
 しかし辺りを見回してみると、三人いる部下達は皆一様に含み笑いをしている始末‥‥やれやれ。
「とか言って、酒に酔った勢いで無理矢理連れてきたんじゃないでしょうねえ?」
「確かに旦那は商売に関しては凄腕だが、酒と女にはからきしときていますからなあ」
「そのくせ、酒場に顔を出すのが何より好きとくる」


 あはははと笑い合う部下達に、矢崎は煩いと顔をしかめる。
「酒場には情報収集に行ってるんだよ。自由と孤独を愛する旅商人とは言え、時には付き合いも必要ってもんさ」
「はいはい、それで世話好きでお人好しの旦那は、美人姉妹の先導を買って出た、という事ですかい」
「よっ、さすが矢崎の旦那!」
「男前だねえ、格好良いっすよぉ」
「‥‥馬鹿にしているだろ、お前ら」




 ――翌日の早朝。
 酒場で交わした約束通りに、姉妹と矢崎は峠側の門で落ち合った。
 姉妹は中型の荷馬車を一台、配下の若者を三名随えた矢崎は大型を四台、と言った編成である。
 朝特有の冷たく清んだ空気の中、矢崎達よりも一足早く点検を終えた姉妹は、湯気を立ち上らせている愛馬の首を労うように撫でている所だった。



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