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「華を織る」
05


 可憐な姿に似合わず、四剣中一番の渋処を躊躇いもせずに挙げた三重に、おおっと商人達は賛同の声を上げる。
「良いねえ、若いのに分かってるじゃないか、嬢さん」
「ああ、やっぱり豪剣様が男の中の男さ。あの槍捌きには、どんな男でも惚れちまうぜ」
「陛下への忠誠心も一番だと聞くからな」
 女性陣の圧倒的支持を得ている銀髪の異国の薫り漂う舞剣に対し、どうやら男性陣には実直寡黙な忠義一筋のいぶし銀・豪剣が密かに人気らしい。


「ちなみに姉は、」
 そこで一呼吸置くと、三重は姉の顔を覗き込む様にして悪戯っぽく微笑む。「――こう見えて静剣様がお気に入りなんですよ」
「!!」
 妹の発言に驚いたように目を見開く八重の姿に、ほうと商人達は意外そうにその整った顔を眺める。
「へえ、静剣様かあ。何でもおっそろしく頭の良い方らしいな」
「ああ、眼鏡がすこぶるお似合いらしい」
「そうそう眼鏡と言えば、北雪が鉱物から歪みの少ない硝子を開発したらしくてな‥‥」




 旅慣れた孤独に強い旅商人とは言え、親しい仲間達との会話は何物にも替えがたい貴重な時間である。
 紆余曲折を経ながらも、商人達の話は延々と夜遅くまで続いてゆく。





「‥‥親父、勘定だ」
「あいよ。また来てくれな」
「ああ」


 そんな和気藹々とした空気の中、料金を卓の上に置いた二人連れが目立たぬ様に席を立った事に注意を向ける者は――そして会話の輪に自然に溶け込んでいた彼等が実は一見であった事に気付いた者は――ほとんどいなかった。







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