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「華を織る」
03


「おお、矢崎が連れて行ってくれるのかい」
「良かったなあ、嬢さん達」
 どうなる事かと鳴りを潜めて見守っていた商人達は、一様に安堵の声を上げる。
 仲間内では人柄と気風の良さで知られている矢崎の事、か弱き女性からの依頼を断る事はしないだろうと踏んではいたが、それでも実際に了承の言葉を聞いてほっと息を吐いた。
「いやあ、誰もいなかったらどうしようかと思ったが、矢崎なら大丈夫だな。うん」
「こいつは若いが、小さい時から親父さんにくっついて旅をしているから経歴は長い。安心してついて行けば良いさ」


「あの、ありがとうございます!矢崎様」
「明日の朝、峠側の門に集合な」
「はい、よろしくお願いします」
 矢崎に向かって深々と頭を下げた後、商人達に対しても笑顔で会釈をする三重。
 八重の方を振り返り、微笑みながら頷き合うと、再び皆へ向かって頭を下げた。
 その嬉しげな様子にどこかぎこちなかった店内の空気も解け、商人達は姉妹の方へと改めて興味津々に身を乗り出す。


「なあ嬢さん達、都城から来たって?」
「はい。城下から参りました」
「そうだよなあ、なんかこう、雰囲気が良いって言うか、洗練されてるって言うか。なあ?」
「ああ、二人とも本当に別嬪だ。ここらの町娘達とは格が違う」
「城下じゃ野郎共に言い寄られて大変なんじゃないのかい?」
「いいえ、そんな事、」
 口々に賞賛を受けて、三重は顔の前で手を横に振りながらも照れたように笑う。


「おい矢崎、明日はしっかり嬢さん達を送るんだぞ?」
「妙な気ぃ起こして、ちょっかい掛けるんじゃねえぞ?」
「はいはい、あんたらに言われなくても分かってるさ」
 商売柄口だけは滅法上手い商人達だったが、この美しい姉妹に対してはどうやら世辞だけでは無いらしい。
 八重の穏やかな上品さ、三重の人好きのする明るさに、父親の遺志を継ぐと言う心意気への感心も追加され、親父達の心をすっかり掴んでしまったようだった。



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