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「華を織る」
02


「悪い、話が逸れたな。俺は矢崎。南波の珊瑚細工を西風へ運ぶのに、明日、峠を通る」
「私は都城城下から参りました、三重と申します。こちらは姉の八重。西風へ絹織物を運ぶところです」
「話は聞かせてもらっていたが‥‥本当に二人だけで行くのか?」
「はい」


 堅い表情ながらも深く頷いた妹――三重は言葉を続ける。
「どうしても急ぎ、西風へ品を運ばなくてはならないのです。危険なのは分かっているのですが、護衛も出払ってしまっていて。それでもし宜しければ、」
「――峠を越える他の商人に同行させてもらいたい、と」
「ご迷惑はおかけしません、ただ同じ道を進ませて頂ければ良いのです、私達が遅れても気にせずに‥‥」
「良いよ」


 仰ぎ見、必死な面持ちで訴えを始めた三重に、しかし矢崎は皆まで聞かずにあっさりと気安く頷いた。
「良いよ、俺達の後について来れば良い」
「‥‥宜しいのですか?」
 了承だったにも係わらず、あまりにも早い矢崎の回答に、些か意外そうな表情を浮かべながら三重は重ねて尋ねる。
「ああ、構わない。旅仲間は多い方が良いしな。しかも美人の道連れなら、益々大歓迎だ」


 正直、姉妹の様な弱者二人と道連れになったところで、矢崎には何の利益も無い。
 それどころか進行速度も落ち、警護の範囲も広がる為、一方的に害を請け負うだけである。
 断られても文句の言えない頼みを、しかし矢崎は嫌な顔一つせず――『美人』だからという二人の重荷にならない理由まで用意して――快く引き受けてくれたのであった。
 玉砕覚悟だった三重が戸惑うのも無理は無い。




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あきゅろす。
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