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「華を織る」
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「俺ならば明日、峠を通るが?」




 店内中の視線を浴びながら佇んでいたのは、鍔広の帽子を被り長い外套を羽織った、中肉中背の一人の男だった。
 良く日に焼けた顔は正直美男子とは言い難いが、帽子の下から覗く瞳は才気と茶目っ気に溢れ、不思議な存在感を醸し出している。
「なんだ、矢崎じゃないか」
 どうやらこの店の常連客であるらしい、大卓に集っていた商人達は口々に親しげな声を上げると、急いで彼の為の席を設け始めた。


「南波はどうだったい?」
「ああ、相変わらず陽気だったよ、あの国は」
「仕入れはどんな案配だ」
「上々さ。上物の珊瑚の細工物が出ていてね。あと、お前さんに頼まれていた紫真珠の髪留め、手に入ったよ」
「ありがてえ、末の妹の祝言に間に合ったぜ」
「なんだい、お前の妹、結婚するのかい。目出度いじゃないか」
「こりゃあ、俺達からもお祝いしないといけねぇなあ」




「――あの、」




 矢崎の登場により暫くの間、商人達の話題から置いていかれた形となった姉妹だったが、やがて会話の頃合いを見計り妹が遠慮がちに声を掛けた。
「明日、峠を通られる方ですか?」
 幾らかの警戒と期待の入り交じった視線を投げる妹に、矢崎は帽子を脱ぎながら身体ごと姉妹の方に向き直ると、ああと頷く。




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あきゅろす。
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