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「華を織る」
5


「峠を?お前さん達二人だけでかい?」
「止めておいた方が良いよ。ほら、聞いた事は無いかい?新手の野盗が出没しているって」
「俺達でも躊躇うぐらいなんだ、女性だけで向かえば、襲ってくれと言っているようなもんさ」
「西風へ行くなら、北上する街道を使った方が安全さ。かなり遠回りにはなるが、格段に危険は少ない」
「‥‥分かっています」


 反対される事は事前に承知していたのだろう、商人達の声に微かにたじろいだ様子を見せながらも、妹は気丈に頷いた。「――それでも急を要するのです。峠を越えなければいけないのです。それに峠を通る人、全てが全て襲われる訳では無いのでしょう?」


 妹の強い決意に満ちた声に、商人達は思わず顔を見合わせる。
「‥‥まあ確かに、全員が襲撃されている訳じゃないけどな」
「むしろ襲われるのは、一握りの不運な連中だけだ」
「奴等も利口だ、敵わない相手には手を出さないからな。‥‥だがな、裏を返せば、敵う相手は確実に襲うって事だ」
「そういう意味でも、お前さん達はどう見ても、格好の餌食ってやつだぜ」
「どうしても峠を通りたけりゃ護衛を付けるって手もあるが、しかしこの野盗騒ぎで、町の護衛は出払っているからなあ」


「その事でお伺いしたいのですが、どなたか明日、峠を越える方はいらっしゃいませんか?」
 妹の問いかけに、商人達は再び顔を見合わせる。
「うーん、今回は安全重視で街道を通る事にしたからなあ」
「俺の品は北雪行きだから、峠は通らないよ」
「今日、逆に西風から来たばかりだからねえ」
「俺は、都城の得意先から呼ばれててね」
「五日後なら峠を越えるつもりだが、それじゃあ遅いんだろう?」



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あきゅろす。
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