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「華を織る」
4


 二人に向かい気前良く頷いた後、いそいそと厨房へと戻る店主。
 暫く後、盆の上に湯気の立つ二つの杯と突き出しの小皿を乗せて現れると、少しお待ち下さいと頭を下げ再び厨房へと消えた。
「まあ美味しそう。姉さん、温かいうちに頂きましょうよ」
 姉妹は頷き合うと、仲睦まじい様子で小皿を分け合い出す。
 ‥‥都城から来たと言うだけあり、二人の装いは身軽な旅装束ながらもすっきりと洗練されており、町娘達との差は一目瞭然だ。
 その瑞々しい気配は、商人達の陣取る大卓にまで漂ってきそうだった。


「‥‥」
 そんな二人を、しかし商人達はやや遠巻き気味に眺めていた。
 突然目の前に現れた噂以上に華やかな高嶺の花を前に、先程までの気勢はすっかり鳴りを潜めてしまっている。
 旅商人を名乗っているとは言え、まさかこの男所帯の酒場へうら若き女性が来るとは想像しておらず、口八丁手八丁が自慢の彼等も些か手をこまねいている様だった。


「――あの、」
 膠着した空気を払ったのは、ふいに商人達を振り返った妹の良く通る声だった。
「皆様、旅商人の方々ですよね‥‥?」
「あ‥‥ああ、うん、勿論そうだよ」
「この店に集っているのは、みんな旅商人さ。なあ?」
「生まれも育ちも違うが、旅暮らしの商いを生業にしているのは同じさ」


 小首を傾げながら幾分遠慮がちに掛けられた妹の声に、きっかけを掴んだとばかりに一斉に頷く商人達。
 その様子に妹はぱっと嬉しそうな表情を浮かべると、向かいに座る姉の顔を覗き込んだ。
「ああ良かった!ほら姉さん、やっぱり来て良かったでしょ?」
「?俺らに何か用かい?嬢さん達」


 どうやら食事の為だけに酒場を訪れたのではないらしい、何やら目的のありそうな姉妹の様子に商人達も身を乗り出す。
「私達、急ぎ西風に運ぶ品がありまして、それで明日は国境の峠を通りたいのですが、」
 話を切り出した妹だったが、しかし次の瞬間、商人達の上げた驚きの声に先を続ける事が出来なくなってしまった。


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