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「華を織る」
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 その日、西風との国境付近にある宿場町に構えられた、旅商人行きつけの小さな酒場では、二つの噂で持ちきりだった。
 一つは、この宿場町近くの村や峠でも被害が出始めたという、新手の野盗集団の話。
 そしてもう一つは、昼過ぎにこの宿場町へ着いた、都城から来たと言う若き美人姉妹の旅商人の話だった。


 治安の良い東雲の事、単なる物見遊山であれば女だけの旅も珍しくは無いが、しかし商売人となると話は別である。
 常に危険と隣り合わせのうえ、己の商才と体力一つで世間と渡り歩かねばならない旅商人の女性のなり手はまだまだ少なく、時折見掛ける女商人は海千山千の親父達も舌を巻く、相当な遣り手の女傑ばかりだった。
 そんな中に、うら若き姉妹の旅商人の噂が飛び込んで来たのである。しかも二人揃って美人とくる。
 酒場に集う商人達が騒ぐのも無理は無かった。


「その噂、本当なのか?若い姉妹の旅商人なんぞ、聞いた事が無いぞ」
 店内中央に据えられた大卓に陣取った商人の一人が、顔見知りである隣席の商人に声を投げる。
「それがよぉ、急死した親父が旅商人だったとかでさ。その遺言である最後の荷物を、どうしても運びたいんだってよ」
「てことはその二人、素人って事かい?」
「ああ。ただもう、親父さんの願いを叶えてやりたいが為に、皆が止めるのも聞かずに飛び出して来ちまったんだとよ」


 仕事柄、様々な人達と接する機会の多い彼等である、基本的に話好きでなければやってられない。
 行きつけの酒場に顔見知りの商売仲間同士、一日を無事に終えられた安堵と酒の勢いも手伝い、あれよあれよと言う間に話題は店内中に広まって行く。
 或いは果実酒の杯を片手に、或いは山鳥の野菜煮込みの皿を抱え、店主までもが厨房仕事を一時中断し、ぞろぞろと大卓を囲み始めた。




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