「華を織る」
03
それまでの本気とも冗談ともつかない会話から一転、魅惑的な笑みを浮かべて見つめてくる白夜に、宮古は表情を険しくする。
過去何度か遭遇している相手が何を言うのか、嫌々ながらも予測がついた。
「今日も仄かに輝く十六夜月のように美しいね」
「・・・」
敵将とはいえ上司の旧知である人間に『阿呆かお前』と言うわけにもいかず、宮古は黙ったまま眉間の皺を深くする。
「そこの無鉄砲で無頼漢で無頓着な華剣ごときとは手を切って、私の元へ来てくれないか」
「せめて最後の一つは訂正してもらいたいものだな」
「ほう、では残りの二つは認めるんだな。・・・で、どうだい?愛しの宮古殿」
「お戯れを、白夜隊長」
ああやはり阿呆と怒鳴っておくべきだったか。
溢れてくる盛大な溜息を懸命に我慢しながら、それでも宮古はなんとか拒否の声を絞り出した。
何が悲しくて、戦中の敵将から勧誘を受けねばならないのだ。実力を買われたのならともかく、母親似の容姿ごときで。
見くびられるにも程がある。
「諦めろ白夜、宮古には思い人がいる」
「か、華剣?」
「ほう、それは私より良い男かい?」
「そうだな、お前とは正反対だが良い男だ」
「‥‥勝手に進めないでください、お二方」
自分の事なのに完全に蚊帳の外へ追いやられた宮古は、呆れを通り越して頭痛すら覚えてきた。
上司は悪乗りするわ、敵将は懲りないわ。
そもそも貴方達は敵同士でしょうが何を結託しているんですか。何なんですかその余裕と暢気さは。
「それにこいつは俺の副官でいてくれないと困る。悪いな白夜、諦めろ」
「お前には聞いていない、桜木。宮古殿、どうだい?」
「我が上司のままに」
「ふむ。つれない所もまた良い」
遅まきながらも一応助けてくれた上司に頷く宮古に対し、気の強い子は好きだよ、と白夜は笑うと、ひらりと窓枠に飛び乗った。
「また誘いに来るよ、宮古殿。――それでは」
言い終わるや否や、その姿が桜木と宮古の視界から消える。
「っ、」
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