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「華を織る」
07


「え・・・・えと、俺は桜木と言います。麻乃のしがない友人です」
 我ながら情けないと苦笑する程にたどたどしく、桜木は改めて自分の名前を名乗った。
 称名の方が独り歩きをしてしまう為、世間では意外と本名を知られていない四剣だが、万一という事もある。
「はい、桜木様、よろしくお願いします」
 幸いにも亜紀は、暫く前に遭遇した華剣という剣士と、目の前にいる司書の古い友人とが同一人物だとは、夢にも思っていないらしい。
 返ってきたのは、至って気負いの無い朗らかな挨拶だけだった。
 桜木が求めて止まなかった「桜木」という人物に対する何の躊躇も無い笑顔。




 気付いていない。
 この子は気付いていない。


 その耳が、剣の擦音と長靴の足音を聞かない限り。
 その指が、文字を綴った俺の指先に触れない限り。
 この子が、俺の中の「華剣」という存在に気付く事は無い・・・・?




「――と言う訳で桜木、貴方も一緒に来て下さい」
「麻乃、一緒にって何処へ」
「貴方は本当に丁度良い処へ来てくれましたね、桜木。亜紀の手伝いを一緒にお願いします」
「いえあの、麻乃様、俺は」
「大丈夫、この男は体力だけはありますから。荷物持ちに最適ですよ」
「体力だけって、酷い言い草だな?」
「おや、これで先日の分は帳消しにしますと申し上げているのですが?」


 あれ、実はかなり高価な物だったんですよね、と意味深長に幼馴染から微笑まれ。
「・・・・はいはい、お手伝いさせて頂きます」
 自分の正体を白状する機会を逸したまま――その機会が無くなった事への大きな安堵と微かな罪悪とを同時に抱きながら――亜紀を先導する麻乃の後をゆっくりと追う、桜木であった。


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