「華を織る」 05 ――まさか。 果たして、絶句する桜木の前に姿を現したのは。 「目録から本は選びましたので、後は書棚の場所を教えて貰えたら、俺、一人で探してみますから」 華奢な肩から斜めに掛けられた無染めの長布は、とても柔らかく滑らかである事を桜木は知っていたし。 また、さらりと揺れる癖のない漆黒の髪が、見た目通りに手触りの良いものである事も知っていた。 ・・・・そして、その瞳が。 「あの、お客様ですよね?申し訳ありません、俺、もう用が済みましたので」 ゆっくりと部屋の中を探すように巡るその瞳が、黒く深く澄んでいる事も。 ――なんで、ここに。 「・・・・桜木?」 暫くの間、呆然と亜紀を凝視し続けていた桜木は、訝しげな麻乃の声にはっと我に返った。 「あ、・・・・ああいや、申し訳ない、ええと、」 何故。 ここに何故、あの子が。 「?桜木?どうしました?」 「え?ああいや別に、どうもしてないけど」 よりによって、何故。 何故、麻乃の処なんかに。 「この子は城下の織師・亜紀です。本を借りにきてましてね」 「お邪魔しています。ええと、桜木様・・・・でしたよね?」 「そう、桜木です。私のしがない古くからの友人でしてね。若干煩いですが、悪い人間ではありませんよ」 「すみません桜木様、俺、もう行きますから」 「ああ、ちょっとお待ちなさい、亜紀。ついでだから桜木に・・・・桜木?」 [*前][次#] [戻る] |