「華を織る」 05 不意打ちを食らい、一瞬、唖然とした宮古が慌てて我に返り叫んだ時には、既に桜木の姿は扉付近には見えず。 暫く後、弾む様な足取りで詰所を離れて行く後ろ姿だけが、窓越しに遠く窺えた。 「‥‥本当に桜木は書類処理が嫌いなんだね」 小さくなって行く姿を、眼鏡越しにのんびりと眺めながら清水は可笑しそうに笑う。 「まあ俺も好きじゃないけど、奴のは筋金入りだな」 同じく窓際へ寄りながら蒼川は納得した様に頷く。 「しかし、どこへ行くんだろうね。あんなに嬉しそうに」 「あの方向なら、図書館だろうな」 「お礼に行くのかな。今回は随分と麻乃殿にお世話になっていたみたいだし」 「帰って来ないかもしれないな、あれは」 「あ、やっぱり蒼川もそう思う?」 「まあね。書類も大分片付いてるし‥‥あーあ、俺も一緒に行けば良かった」 「だから皆さん、仕事して下さいっ!」 もう暫くの間は。 東の剣は平穏そうである(‥‥ただし、宮古を除いては)。 [*前][次#] [戻る] |