切ない痺れ13



もう、ドキドキが止まらない。
俺は古泉の数歩後を黙って付いていっていた。
古泉も俺を振り返ろうとはせず、ずんずんと歩いていく。

(ああ、古泉も緊張しているんだな)

そう思うと、余計愛おしくて。
俺はその後姿をぼうっと見つめていた。
しかし、ある大きなマンションの前で古泉の足が止まる。
少しだけこいつは振り返ると小さな声で

「ここです」

と言った。
見上げてみるとかなりの高級マンションで機関とやらは相当リッチなもんだなと俺は頭の片隅で思う。
古泉はピピッと暗証番号を入力すると、早足でエントランスに入っていってしまった。
当然俺は慌てて奴の後を追うかのように自動ドアに体を滑り込ませる。
古泉は先にエレベーターの前でボタンを押して待っていて。
俺は控えめに三歩ほど後ろでエレベーターが来るのを待っていた。
緊張した空気と、ドキドキするこの変なもどかしさに身が焦がれそうだ。
そうこうしているうちに、すぐにライトが点滅してエレベーターの到着を告げる。

「どうぞ」
「あ、サンキュ」

開いた扉が閉まらないように手で押さえると古泉は俺に先に入るように促した。
なんだか女の子みたいな扱いに恥ずかしい気分になりながらも、俺は素直にエレベーターに乗り込んだ。
その後すぐに古泉も乗り込んできて、「10」のボタンを押す。
少しずつランプの点滅の数字が増えて、古泉の部屋へと近づいた。
心臓が破裂しそうなくらいバクバクしていて、この音もこいつに聞かれてしまっているんじゃないかと不安になる。
だが、ランプが「5」になった時点で古泉がいきなり話しかけてきた。

「ねぇ、キョン君」
「な、んだ…」
「手、繋いで良いですか?」

俺がその意味をよく理解できぬままにぽかんとしているうちに、古泉は俺の手を取ってぎゅっと握り締めてしまう。
どうしよう、心臓が飛び出してしまいそうなくらい心拍数が上がっているぞ。
しかし、ちょぴり汗ばんでしっとりした古泉の手のひらに俺は気づく。

(そうだった、こいつも緊張しているんだ)

そう思った途端俺はひどく安心した。
やわらかく握り返せば、すぐに「10」のランプが点滅する。
折角手を繋げたのにもう離さねばならないのかと思うと残念で仕方が無い。
だが、俺の予想に反して古泉の手は俺を握りしめたままエレベーターの外に引きずり出した。
誰に見られるか分からないのにこんなに堂々と手を繋いでこの狭い二人きりの空間から、外界にでるのかと思うとドキドキする。

「こ、いずみ…!」
「………」

呼んでみたが、古泉はずかずかと廊下を突っ切り、ついには一番端の部屋までたどり着いた。
キーを取り出すと、カチャリと小さな音を立てて鍵穴にキーを通す。
これから先には他人の干渉が無いに等しい、二人だけの区間だ。
入ってしまったら、どうなってしまうのだろうとアタマがぐらぐらした。
そんな俺を見て古泉は笑うとキーを引き抜き、俺を中に招き入れる前に忠告する。

「はっきり言います、僕はあなたを押し倒さない自信が無い」
「………」
「嫌なら今すぐ帰ってください、それでも良いのな、」
「入れろ、つべこべ言わすな」

もう、迷ってなんか居られない。
なんでもいい、古泉と一緒にいたくて仕方が無いんだ。
俺は古泉の体を押しのけて玄関先に上がりこむ。
未だ廊下に立ち尽くす古泉に向かって今度は俺からこういった。

「その扉を閉めたら、俺とお前だけだ」
「…はい」
「もう、誰も邪魔できない」




大きな音を立てて、扉が閉まった。





続く



あきゅろす。
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