捩じ伏せたい、狂わせたい4




国語科準備室に着くと、彼は僕の腕を振り払って自らのデスクに腰掛けた。
僕は何もいわずに戸口で彼を見つめる。

「早く帰れ」
「嫌です」
「早く帰らないと県教委に生徒に犯されたって訴えるぞ」
「そんなことしたらさっきの写真ばら撒きます」
「ふざけるな…」

はぁ、とため息をついて彼は机につっぷした。

「まさか男子生徒に犯されるとは思わなかった…お前男だぞ?絶対変だ…」
「その男相手にあんなに感じてたのはどこの誰でしょう?」

そう言って考えるようなふりをすると、いきなりノートが飛んできて僕の顔にバサリと当たる。
顔を真っ赤にして震えながらこっちを睨んでいる彼まで可愛いだなんて思ってしまう僕は相当頭が変になっているのでしょうね。
もう、あなたが好きすぎてどうにかなってしまいそうだ。

「もう、あんなことはしません…申し訳ありませんでした」

ぺこりと頭を下げて、僕は準備室を後にしようとした。

初めからこうするつもりだったのだ。
こんなことをするのは一度きり。
彼が何か騒ぎだして、面倒なことになるのは嫌だから写真を撮って口封じをして。
それでいいのだ。
本当に僕は馬鹿だから、我慢できなかった。

ドアノブをまわして廊下に出かけたとき。
不意に、彼に呼び止められた。

「待てよ、古泉」
「…何でしょう?」
「俺の返事は聞いていかないのか?」
「…はい?」

何を言っているんだ、この人は。
返事だと?
そんなの決まりきっているじゃないか。

「なんで最近の高校生はいきなりがっつくんだ、俺はそんな教育した覚えないぞ?」

なんてぶつぶつ言いながら、重い腰を上げて彼は僕に向かって歩み寄ってきた。
罪悪とか、背徳とか、そんな簡単な言葉で表現できないくらいの何かに襲われた僕は思わず一歩後ずさる。
僕の後ろにあった扉が閉まった、彼がドアノブを引いて閉めてしまったからだ。
僕の目線少し下で機嫌の悪そうな顔がこちらを見ている。
ああ、殴られるのかな、なんて思ったその時。

突然ネクタイを引っ張られて僕の体は前へつんのめった。
そのまま衝突したのは、柔らかくて暖かい…これは…

「ん、ふっ…!?」
「んく、ッハ、ざまーみろ」

僕は驚いた、何にって彼の行動に。
なぜなら彼は僕にいきなりキスしてきたのだ。
唇を押さえて驚く僕を見て彼はしてやったりとばかりににやりと笑う。

「これが俺の返事だ」
「なっ、どういうことですか…!」
「第一なぜお前はいきなり犯すんだ、初めにきちんと言うことがあるだろう、言うことが!」

僕はらしくも無く混乱してしまう。
これは自分のいいように勘違いしてしまっていいのだろうか?

「俺はお前のこと好きだ、だから面倒くさい補習だって受けてやったんじゃないか」
「そう、なんですか?」
「当たりまえだ、こんな面倒なこと」

いいんですか、教師がそんなこと言って。
それでもとにかく信じられない気持ちで僕は彼の両手をぎゅうっと握ってみる。
すると彼は恥ずかしそうに笑って僕の手を握り返してくれた。
なんてことだ、無理に手に入れようとせずとも彼はすでに僕の腕の中に居たのだ。
咄嗟に彼をきつく抱きしめる。

「先生、ごめんなさい…!」
「悪いと思うのならこれからしっかり尽くしてもらうからな」

そういって笑った彼の唇に今度は僕から口付けして。





もう、手放すつもりはありません。
覚悟してくださいね、先生?




end



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