切ない痺れ11



俺はあまりにも突然なことに驚いて、固まっていた。
どうして古泉がここにいるんだ、訳が分からない。
とにかく、抱きしめられているのが嫌で俺は古泉の胸元を思い切り押し返した。
(こんなに強く抱きしめられたら、もっと好きになってしまいそうだから)

「はな、せ!」

そう叫べば、古泉が苦しそうに顔を歪めた、なんだその顔は、男前が台無しだぞ。
俺は思いきり古泉を睨みつけると、震える声で怒鳴った。

「忘れられないじゃないか!」
「…あなたは忘れたいのですか?」

突然古泉が静かにそう、呟く。
当たり前だ、忘れたいに決まっている。
俺はいつも通りに戻れたらそれで良いんだ、それ以上も以下もない。
おまえに嫌われたり、なんだかお互い妙な気持ちを持ったまま意識しあったりして毎日を過ごすのが嫌なんだ。
だから、早く忘れていつも通りの自分たちに戻りたい。

「本当に、ごめん…俺から忘れようだなんて言ったくせにかっこわるいよな」

ごしごしっと眦を拭って俺は笑った。
いつも通り、笑えているだろうか?
そんな俺を見て、古泉はさらに情けなさそうに眉を下げた。
何が不満なんだ、言ってみろ。

「…僕は、忘れたくない」
「え、」

古泉の言葉に俺は固まった。
忘れたくないだなんて、つまりはもう俺を許せないと言うことだろう。
もう、俺には付き合いきれないってことだよな。
関わり合いたくないくらい、俺なんか大嫌いで…

そう思うと激しく絶望はしたのだが、なぜか涙は出てこなかった。
ただ、心がからっぽになって変な虚無感しか感じない。

あぁ、今このままあそこから飛び降りろと言われたら俺は迷わず飛び降りるだろうな。

妙に頭だけは冷静で、俺はとりあえず古泉から離れた方が良いだろうと思って立ち上がった。

「ちょっと、どこ行くんですか」
「お前がいないところ」

そっちの方が助かるだろう?と問うて、俺は立ち去ろうとした。
しかし、俺の腕を掴んだ古泉の手が立ち去ることを許してくれない。
そんな古泉を冷たい目で振り返って、俺は驚いた。
なんでお前が泣くんだ。

「僕だって、初めは凄く腹が立ってあなたのことを軽蔑しました」

ほら、そうじゃないか。
俺はお前が好きで、お前は俺が嫌い。
ただ、それだけ。

「でも、僕を想って泣くあなたを見て可愛い、いじらしいと感じるようになったのはいつからでしょう」
「は…?」
「あなたに想われているのが嫌じゃなかった…むしろ心地よかったんです」

どういうことだか意味が分からなくて頭がぐるぐるする。
訳が分からなくなった俺は呆けた顔で古泉を見つめ返すことしかできない。

「…好きです、あなたが僕を好きな気持ちに負けないくらい僕はあなたが大好きです」

今古泉に言われた台詞が頭の中で理解できずにいる。
は?俺が好き?
何言ってんだこいつ、ばっかじゃねーの。
お前は男が好きなのか、あんなにたくさんの可愛い女の子に好かれている癖して。
なのに俺みたいな可愛くもない男がいいのか。
本当に、本当に大馬鹿者だよお前は。

「キョンくん…」
「な、んだ」
「そんなに泣かないで下さい」

そう言われて俺は泣いていることに気づいた。
ボロボロと涙が溢れて視界が霞む、古泉の顔もよく見えない。

「僕はいつも通りの友達に戻りたくないんです」
「う、ん…」
「あなたと恋人に、なりたい…」
「う、ん…っ!」

もう、訳が分からないが俺は必死で頷いた。
右手では古泉のブレザーの裾を握りしめて、左手では涙を拭って。
大忙しだな、俺の両手は。

「ねぇ、抱きしめても良いですか…?」

もう嫌がらないで下さいね、だなんて言われて俺が断る訳がなかろう。
微かに首を上下に動かした、別に真似たわけではないが長門のようだと頭の中で思う。
ふわりと抱きしめられると、もっと、もっと古泉が好きになる、愛しくなる。
俺は古泉のブレザーの裾から手を離すと、震える手で古泉を抱きしめ返した。
胸に顔を埋めると、良い匂いがする。

「あなたに抱きしめられると、僕もあなたがもっと好きになってしまいそうです」

ははっ、と困ったような笑い声が聞こえた。
バカが、好きになればいいんだ。
もっと俺のこと、好きになればいい。

「おい、古泉」
「何でしょう?」

俺の頭を撫でている古泉に話しかけてみる。
話しかけておいてなかなか俺は次の言葉を発することができない。
なんかしゃっくりがだな、その、出てきてなかなか言葉が紡げないんだ。
そんな俺を分かってか、古泉は頭を撫でていた手を背中に回して、またゆっくり撫でてくれた。

「こい、ずみぃ…ひっく、あの、な…!」
「ゆっくりで良いですよ」
「好きって言っても、イイ…?」





続く


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