蓄積される感情2





ちょっとだけ涙が滲んで、さらに情けない気持ちになる。
俺は指を引き抜いてワイシャツの袖で目元を拭った。

と、その時。

暗かった室内がいきなり明るくなる。
驚いた俺はばっと起き上がり、ドアの方向を見やった。
そこには驚いたような顔をしているこの部屋の持ち主が居て。
俺は咄嗟にシーツを手繰り寄せて、自らの体を隠した。
こんなところ、見られてたまるか!

「どう、したんですか?」
「五月蝿い、お前が俺に会えないとか言いやがるから嫌がらせに来てやったんだ」
「そうじゃなくて、」

泣いていますよ、と言われて俺はまだ涙が止まっていなかったことに始めて気がついた。
見られてはいけないことを見つかったような気持ちになって、俺は顔を赤く染める。
とにかく、この情けない顔を見られまいと顔を背けた。
しかし、すぐに近づいてきた古泉はベッドに乗り上げて俺の顎を掴み、無理矢理顔を合わせようとする、やめろ、痛いぞ。

「なんでそうやって隠すんですか、何か僕に後ろめたいことでも?」
「――断じてない!離せ!!」
「嘘、一人で恥ずかしいことしていた癖して」

バサッとシーツを跳ね除けられて、俺は小さな声で「あっ」と叫んだ。
俺が先ほどまで浸っていた、いやらしい自慰の跡が生々しく残っている。
シーツにはべっとりと精液が付着しており、ぐちゃぐちゃになった俺の下肢も晒されて。

「オナニーしていたんですか?僕に抱かれることでも想像して?」

意地悪にそう尋ねてくる古泉に無性に腹が立った。
お前が会えないとかほざきやがったせいなのに、まるで俺が我慢のきかない獣のような扱いをされて。
納得できるか、忌々しい!
ぶわっと涙が溢れて、古泉の頬を平手で打ってやった。
ゲンコツだと俺の大好きな顔がかわいそうなことになったら大変だからな、って何を言っているんだ俺は。

「俺が、どんな気持ちで居たかも知らない癖して…!」
「……申し訳ありません、少し苛めすぎました」
「会いたくて、でも会えなくて、寂し、くて…っ!」

俺は衝動的に古泉に抱きついた。
こんなに触れたかった体、我慢なんか出来ない。
思いっきり抱きついて、胸いっぱい古泉の香りを吸い込んで。
古泉も遠慮がちに俺を抱きしめてくれる。
ああ、俺は此れが欲しかったんだ。

「寂しかった、お前の匂いはするのに、寒くて、冷たくて…」
「…はい」
「会いたかったのに、普通に会えないとか言いやがって、俺だけが会いたいみたいで最高にむかついた」
「すみません、でも僕があなたに会わずともどうでもいい、というのは間違っています」

まじめな顔をして古泉は言った。

「僕だってあなたに会いたくて仕方がなくて、こんなにも焦がれていたのに」

そうやって呟いた古泉の顔は、情けないくらい焦燥していて。
俺はそんな古泉を見て切なくなって、思いっきり奴の肩を押し、ベッドに押し倒した。
驚いたような顔をしてる古泉に口付けながら。

「だったら証明しろよ、俺を愛しているってこと」



あぁ、きっと酒を飲んでいるから俺はおかしくなっているんだ。
古泉に逆に押し倒されながら、頭の片隅でそう思った。










「アッ、は、ううぅぅう!!」

俺は古泉に突っ込まれて卑猥な声を上げた。
先ほどの自慰ですっかり蕩けきっていたアナルは、前戯の必要もなかったようだ。
古泉はというといやらしい笑みを浮かべて俺に腰をたたきつけている。

「すごい、どろどろですよ…可愛い…」
「うるさ、あ!ああ、あ!あう、ヒッ!」

もう、気持ちよくてよく分からない。
ただ俺は必死に腰を振って古泉に答えていた。
ぎりぎりまで引き抜かれて、奥まで一気に捻じ込まれる快楽にペニスが震える。
口の端からは飲み下しきれなかった涎が滴り、生理的な涙も頬を伝った。

ずっと、ずっとこうして欲しいと願っていたのだ
こうやって抱きしめて、一つになりたかった

さっきまでのイライラが浄化され、古泉が好き、という気持ちで満たされる。
ぎゅっと縋り付くと、古泉も今度は力強く抱き返してくれた、素直に嬉しい。

「もう、ダメ!気持ち、い…!変になる…!」
「僕も、いいです…ずっとこうしたかった…」

それを聞いて俺はゾクゾク、と体が震えるのを感じていた。
古泉も、俺が欲しかったんだ思うと嬉しくて。
ペニスがきゅうっと痺れて、何かがググッとせりあがってくるのを感じる。
もう、限界が来たようだ。

「こいずみ、キス、してぇ…!」
「仰せのままに…」

暖かい唇が合わさって、そのまま深く貪られる。
俺も負けじと舌を絡ませて古泉のキスに答えた。
キスをしながらのセックスにたまらなく感じた俺は、激しく感じながら本日三度目の精を吐き出した。

「せーえき出ちゃ…あ、ああぁぁあああ!!!」
「う、っく…」

古泉の熱い飛沫を奥で受け止め、俺はなんとも言えない幸せな気持ちになっていた。
とにかく、一つになっていることが嬉しくて。
古泉もそうなのだろう、いつもならとっくに出ていっているのに今日はまだ俺の中に居る。
それがたまらなく暖かくて、俺はそっと目を閉じた。

「キョン君…」
「…なんだ」
「愛してるってこと、たくさん伝わりましたか?」

なんて恥ずかしいことを聞いてくるんだ、こいつは。
「はい、伝わりました」なんて恥ずかしいことはいえなくて俺は微かに頷いてそれに答えた。
すると、古泉は嬉しそうに笑って軽くキスをする。
触れるだけのキスではあったが、それがまた俺をたまらなくいい気持ちにさせた。
普段は絶対に言ってやらない台詞を今日は特別に言ってやろうか。

「……好き」

言ってから後悔した、俺は今モーレツに後悔している!
顔が燃えているんではないかと思うくらい熱くてたまらない。
そんな俺の顔を面白がって覗き込んでこようとする古泉の顔を押しのけて俺は枕に顔を埋めた。
あぁ、もう三ヶ月は言ってやらんからな!

「そういわないで下さい、あなたが愛されていると感じられるように僕も精一杯努力しますから」

俺の短い前髪をかき上げて額にキスする古泉をちらりと見上げて、疑わしげな視線を送ってみる。
もちろんそうすると、こいつは決まって困った顔をするんだがな。

「…お前の出来次第だな」
「おっと、厳しいですね」

ははっ、と笑う古泉の顔を見て俺も笑みを漏らしてしまう。
こいつがこんなに俺に寂しい思いさせないように頑張ろうとしているんだから、それなりに褒美も与えたほうがいいだろうからな。
そんなことを考えながら俺は自分から古泉に抱きついた。


大好きの気持ちが伝わるように、力をこめて――――






end



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