切ない痺れ7



見慣れた天井がある。
俺はぼんやりとそれを見上げた。
おかしいな、俺は学校の屋上にいたはずなのに。
体を起こそうとするが、少し体を動かしただけで貫かれるような痛みに襲われ、ベッドに沈んだ。
それだけでなく、頭がくらくらして熱っぽい。
……あぁ、なんか冷却シートも貼ってあるし、なんてこった。
俺は寒気のする体を布団におさめて、目を瞑る。
考えるのはもちろん古泉のことばかり。
あいつの冷たい目が思い出された、涙腺がゆるむ。
ぎゅっ、と手の甲でごしごしとそこを擦った。


もう忘れよう、好きの気持ちなんて。









「キョンくーん?」

ノックもなしに妹が入ってきて俺は慌てて布団をかぶった。

「…なんだ」
「あ、起きたんだね!大丈夫?」

大丈夫な訳なかろう、心身ともにずたぼろだ。
…とは言えるはずもなく、俺は適当に返事を返した。

「古泉君がタクシーで送ってくれたんだよ、良かったね」
「またか…」

また、古泉は俺を放っておかなかった、なぜだ。
もう関わらない、という位に突き放してくれたらいいのに。
あいつの優しい部分が俺の心を戒める。

「キョン君、熱があるからしっかり休んでね」

おやすみ〜、と妹は出ていった。
急にしん、と静まり返った部屋の中で俺は枕に顔を埋める。
俺は極力他のことを考えようと頭を働かせるが、浮かぶのはやはり古泉のことばかり。

頭の中では古泉が言い放ったある言葉がぐるぐると回り続ける。
その言葉によってぽっかり穴が開いてしまった心は相変わらずズキズキと痛むし、さらにすきま風がヒューヒューと吹いて寒いばっかりだ。
どうにかその隙間を埋めたくて良いことを考えようとするが全く浮かんでこず。
だったら、大好きだったあの笑顔を思い出したいと枕元にある携帯電話の画像フォルダを開いた。
そこには何枚かSOS団団員と共に撮った写真が保存されていて、俺は古泉と二人だけで撮った写真を表示させる。
そこにはいつものにこにこ顔の古泉と無表情な俺がいた。

その写真を見て俺は後悔した、見るんじゃなかった。

さらに強く胸を締め付けられて、涙が一筋流れ落ちる。


もう戻れない、前までの俺たち。
あのまま好きの気持ちをこっそり持ち続けて隣に立っていれば良かった。
そうしたら、ずっと古泉は俺の隣で笑っていてくれたのに。

もう、戻れないのだ。





俺は震える指で携帯のメニューボタンを押す。
そこから“削除”を選択した。




削除しますか?
はい
いいえ




俺は古泉と撮った、ちょっと恥ずかしいけれども好きだったその一枚を携帯のメモリーから消し去った。














前回のように、我慢して登校ができるような状態ではないくらいの体の痛みと熱で俺は学校を休まざるを得ない状況になっていた。
妹が朝新たに変えてくれた冷却シートがひんやりとして、俺の体温を落ち着かせる。
熱はあまり高くはないのだが、体がだるくて重くてたまらない。
俺は極力体に負担がかからないように寝返りを打つと、枕に顔を埋めた。

きっとこれは俺に対する罰なんだ。
醜くて、卑怯で、汚い俺に対しての。
思わず自嘲的な笑みがこぼれる。
半ばあきらめたように俺は目を閉じた。













“キョン君、あなたは卑怯ですね”

組み敷かれた、恐怖で震える体。
冷酷な目で見つめながら俺を犯す古泉がネクタイ越しに見える。
俺が嫌がれば

“あなたには拒否する資格はない”

と言い放ち。
最後に一言。




“あなたは汚い”










はっと目が覚めた。
息が上がって、ハッ、ハッと息がはずむ。
俺は痛むからだの存在を忘れたかのようにガバッ、と飛び起きるとある場所に向けてタオル片手に走り出した。










続く


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