四角い箱から



※猫キョン/体の大きさは普通のキョンサイズだが、耳としっぽが生えている/人間の言葉は理解できるが喋れない、教えたら覚えて喋る














今日も真っ暗
昨日も、きっと明日も真っ暗なんだ









俺は狭い、四角い箱の中で何日も、何日も待っている。
いい加減おなかも空いて、体がやせ細ってきたのが分かった。
このままじゃ一人寂しく死ぬか、保健所に連れて行かれて薬物かなんかおさらばだ。
ああ、せっかくこの世に授かった命だったのだから寿命を全うするまで生きたかった。
一人寂しく死んでいく自分を想像して涙がでる、誰でも良いから拾っていって欲しい。

そんなことを考えながら、俺はまた眠りにつく。
狭い夜空を見上げながら、体を抱きしめた。
明日、目が覚めることを切に願いながら────













突然ばしゃっ、と暖かい水ををかけられて俺は覚醒する。
全身の毛を逆立て、鋭い爪をむき出しにし、臨戦態勢だ。
猫は水が嫌いだからな、当然だろう!
「フーッ!」とあたりを威嚇しながら見回すと、見ず知らずの青年が驚いてこちらを見ていた。
その手にはシャワーが握られていて、俺はすぐにこいつが犯人だと識別する。
何者だか分からないそいつは困ったように笑うと、俺の頭に手を伸ばして撫でた。
完全にこいつを威嚇の対象としている俺は、その手を思い切りひっかいてやる。
痛みからかその手はびくりと震えたが、変わらず俺の頭を撫で続けた。
そいつは相変わらず穏やかに笑ったままで、俺は胸が締め付けられる。

ああ、こいつは俺のことを受け入れてくれてるのかもしれない。

そう思った途端俺は急激に申し訳なくなり、そいつの手を取り傷口を見る。
そこは五本の赤い筋がうっすらと浮かび上がっていて。
俺はいつも自分がするようにそこに舌を這わせた。
ペロペロと傷を舐めると、青年はもう片方の手を俺の顔に添えながら。

「今まで寂しかったですね、でも僕がいるからもう大丈夫ですよ」

その言葉にもうひとりぼっちじゃないんだと確信する。

どうしよう、なんて幸せなんだ。
自然と涙があふれて俺は体中濡れているにも、裸なのにも関わらず彼に抱きついた。
ぎゅっと抱きついた彼の肩口に顔を埋めてしゃくりあげる。
幸せすぎて、もう死んでも良いとさえ思ってしまったほどだ。
彼は俺の頭を撫でながら、ゆっくりと俺の目を見た。

「これから共に暮らすのですから、名前を教えていただけますか?」

しかし、生まれてからずっとひとりぼっちだった俺には名前なんてない。
少し表情を曇らせると、彼はすぐに察したのかこう提案した。

「では僕が名前を付けて差し上げましょう…そうですね、ではキョン君と呼ばせてもらいましょう」
「きょ、ん…?」
「そうです、すてきな名前でしょう?」

初めてもらった名前に俺は胸が高まる。
どうしよう、俺はさっきまでひとりぼっちだったのにあっと言う間に飼い主が出来て、名前までついた。
嬉しくて仕方がない。

そうなったら、相手の名前も気になった。
おまえはどんな名前なんだ?

「僕ですか?僕は古泉一樹です」
「こ、いず、み?」
「そう、覚えていて下さいね」

俺は古泉に抱きついて、頬を擦り寄せた。
忘れるはずがない、これからずっと、ずっと一緒にいるのだから。




初めて「甘える」と言うことを覚えた俺は、そのもどかしい感覚に戸惑いながらもぎゅっと彼を抱き締め直したのだった。








end?











この話を前提にたくさん猫キョンを書きたいな。



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