赤い赤い
古泉先生←ヤンデレ
「やぁキョン君、また来られたんですか?」
「五月蠅い」
困ったものです、と笑った先生に俺はむっとして睨んだ。
そしてずいっと包帯の巻かれた右手を差し出す。
先生は痛々しいそれをするすると外して、目を細めた。
「これはまた、酷く切れましたね…」
「………俺には切った覚えはない」
「うーん…」
先生は傷の加減を見ながら、消毒液を取り出して傷の手当てを始める。
そこには何本も浮かび上がる赤い糸のような筋。
明らかに鋭利な刃物で線を描いたようなそれに、俺は眉をひそめた。
(こんなこと、しようとした覚えはないのに)
なのにはっとしたときには左手にはカッターが握られていて、右手は血だらけ。
あの瞬間は酷く後悔するのに。
ここにきて先生の顔を見るととても、とても嬉しくなるだなんて。
初めて、ここの外科に来たときから心引かれていただなんて馬鹿馬鹿しい。
あのときは、確かハルヒのごたごたに巻き込まれて左腕を傷つけたのがきっかけだった気がする。
そんなに深い傷ではなかったから、二週間であっさり完治した。
もちろん通院したのは三回ほどのもので、先生と話したのだなんて三回合計約10分だ。
それでも、その10分間で俺は何か理由を付けてはここに来たがるほど先生が気になっている。
この人と会話できることを喜んでいるのだ。
自分がいくら傷つこうとも。
(この人は、なぜ俺が自分を傷つけるのかを知ったら泣くだろう)
end
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