切ない痺れ
※●←キョン










昼休みももう少しで終わる、俺は移動教室のためテキストを持って谷口と国木田と一緒に実験室に向かっていた。
谷口のくだらない話に耳を傾けながら歩いていると、廊下の向こうに古泉の姿が見える。
ただ、彼の姿が見えただけで嬉しくなって心臓が高鳴るなんて恥ずかしくて誰にも言えない。
放課後まで待ちきれない、彼と一言だけでも言葉を交わしたい、だなんて思いながら少しずつ距離を縮める。
谷口が古泉の姿に気付いたのか、俺に声をかけてきた。

「お、あれ古泉じゃねぇか?」

声でもかけてきたら?と谷口は言った、ナイス!ファインプレーだ谷口!
古泉に声をかけるきっかけを作ってくれた谷口を心の中で褒めながら、俺は素っ気なく一言「あぁ」とだけ返事をした。
(明らかに嬉しそうにしたら怪しまれるからな)

ドキドキする心臓を抑え、俺はなんと声をかけようかと考えながら少しずつ古泉との距離を縮めていく。
しかし、あるものが目に入って俺は歩みを止めてしまった。
それに合わせて谷口と国木田も不思議そうに俺の顔を見ながら歩みを止めた。

「あの子、誰だ…?」
「ん?あぁ、四組のかわいこちゃんじゃね?」

女に詳しい谷口はさらりとそう答えると、古泉と楽しそうに話している女の子をデレーンとした目で見つめている。
谷口の好きなタイプなんだな、顔立ちがはっきりとしていて大きな瞳が印象的なかわいらしい女の子だった。
二人はなにやら親しげに、そして楽しげに話をしていた。
まさに“お似合い”なカップルに見えなくもない。

(古泉も、こういう子が好きなんだろうか)

そう考えて胸にチクリ、と針が刺さる。
それからあとは溢れ出すようにつき合っているのだろうか、とか古泉はこの子とキスしたのだろうかとか、嫌な考えが俺の頭を支配した。
そして嫌な考えの数だけの針が俺の胸に突き刺さる。
自分でくしゃ、と顔が歪んだのが分かった。

「…ちょっとトイレ行ってくる、これ頼むから先に行っていてくれ」
「えっ、ちょ!キョン!」

国木田に無理矢理テキストを押さえつけて、俺はきびすを返し、走り始める。
谷口と国木田が俺を呼ぶ声が後ろから聞こえたが、そんな制止の声など聞かずに俺は一目散にトイレに逃げ込んだ。

男子トイレの個室の鍵を閉めると同時に授業開始のチャイムが鳴る。
でも、今の俺にはそんなの関係なかった。

「うっ…ふ、うぅ…!」

良かった、涙が溢れる前にここに逃げ込めて。
沢山の針が刺さってハリセンボンのようになった心臓が、きゅうっと切なく痺れて血を流す。
いくら制服の袖で涙を拭ってもそれは止まることなく、ポロポロと溢れだした。
恋する乙女のような自分が情けなくて、恥ずかしくてどうにかしたいけれどどうにもならない。
ふらふらと便座に三角座りになって、俺は顔を胸と太ももの間に埋めた。


こんな可愛くもない男より、さっきの彼女の方が古泉にはお似合いなのに。
そんなの分かりきっているのに。






(それでも、こんなにアイツが好きになってしまった俺がバカだ)






これはきっと、叶わぬ恋。







続く…かも
要望があれば続きます。

●>キーボンヌ!!!!


あきゅろす。
無料HPエムペ!