天国から、愛する貴方へ6
ベルナルドが、ルキーノが、そしてイヴァンが必死になってジュリオを捜してくれているのを、俺は知っていた。俺だって町中駆け擦り回ってジュリオを捜したかったけれど、どうしても体が動かなくてベッドに伏せたまま。
 俺がこんな様になっている間に、ジュリオの墓が出来ていた。もちろん、死体はない、空っぽの形だけの墓。
 ただ、形だけでも作っておかないと市警が五月蝿いみたいで、俺は嫌々首を縦に振った。
 俺はまだジュリオは死んでしまったなんて認めていないんだ、ジュリオの死体を目にするまで、信じてやれない。信じてやらない。
 しかし、首を縦に振ってしまった時点でジュリオの死を認めてしまったような気がして、それがまた俺を打ちのめした。
 傷は癒えたけれど、心が癒えてくれない。ただ、真っ黒な感情だけが、体の中で渦巻いている。
 ボンドーネの野郎が見つかったら、どうしてやろうか。凄惨な死を、ジュリオより、もっと、酷い死に方で。ジュリオより、もっと苦しむような方法で殺してやりたい。
 捜す手伝いもせず、こんなところで寝込んでおいて、よく言うぜ、と俺は独り苦笑いを浮かべた。
 その時、扉が乱暴に開かれた。こんなことするのは、イヴァンくらいだ。
「おい、ジャン!いるか!」
「いるに決まってるだろ……何だ、用か」
「俺はお前に言いたいことがあるんだよ!」
 ずかずかと俺の目の前にやってきたイヴァンは、相当イラついている様子で俺を見下ろす。そして、低い声でこう言った。
「いつまで寝込んでやがるんだ、チンカス野郎」
「なん、だと?」
 カチン、とキた。俺はゆらりと起き上がると、イヴァンを睨みつける。
 負けじと俺を睨んだイヴァンは、お前はそのままで良いと思っているのか、と言った。
「ベルナルドとルキーノの野郎は優しいからよ、何も言わねぇけどな!俺は言いたいこと言わせて貰うぜ!なんなんだよ、お前は!良い子ちゃんして寝ていれば、ジュリオは見つかるのか!」
「うるせぇよ!黙れ!」
「いーや、黙ってやんねぇ!お前みたいな腰抜け野郎の言うことを聞いてやるもんか!」
 イヴァンはだん、と俺の肩を掴んでベッドに張り倒した。怒りで頭に血が上っていた俺は、それを押し返そうとしてイヴァンの腕を掴む.。
 しかし、掴んだ腕はびくともしなかった。なぜかって?俺の力が弱くなったからさ。
 ずっとベッドに沈んでいた俺は、あっと言う間に体力を奪われていた。半分寝たきり状態だったからな。
 悔しくて俺は唇を噛んでイヴァンを見上げた。イヴァンもなぜか悔しそうに歯を食い縛って、ファック!と吐き捨てる。
「俺はこんなボスの命令は聞いてやんねぇ!」
「五月蝿い!お前は、何も分かっていない癖して!」
「ああ、分からねぇな!こんな腐ったカポの頭の中なんて!」
 それに、お前だって何も分かっていない!とイヴァンは叫ぶ。部屋の空気がびりびり、と震えた。
 あまりの威圧感に俺は口を閉ざしてしまう。それに、あんな物騒な声を出しておいて、イヴァンの顔はその声に不釣合いなくらい、切なく歪められていた。
「おい、ジャン……ジュリオは、俺たちのことなんか待ってねぇ」
 意味が分かるか、とイヴァンは言った。もちろん、分かる。分かるから、ぶわっと目頭が熱くなっているんだ。
「ジュリオは、お前のことしか待ってねぇんだよ……なのに、お前がそんなんじゃ、出てきてくんねぇだろ……」
 ふ、っと肩の重さが離れていった。押さえつけられていた部分が軽くなり、俺はイヴァンを見上げる。
 なぁ、何でお前まで泣きそうな顔、してんだよ。
「お前、アイツのこと大事なんだろ……?だったら、捜してやってくれよ……」
「……すまねぇ……イヴァン……」
 俺は両手で顔を覆い隠した。溢れそうになる涙を止めようとしたけれど、どうしてもそれは叶わない。大きな声を出して泣き叫んでしまいたかったけれど、みっともなくて出来なかった。



続く


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