天国から、愛する貴方へ5
「ジュリオが何者かに連れさられた、と言う仮説が本当だったと証明されたのさ」
「ジュリオが連れ去られた……?誰が、なんのために!」
「……分からない、ただ、ボンドーネか、GDの奴らの仕業か……」
 ボンドーネ、の単語を聞いて俺は目を見張った。そうだ、あのジジイは何処に行って……!俺とジュリオを引き離した、最悪な豚野郎。
「すまない、ジャン……ボンドーネは……すぐに俺とルキーノが屋敷に向かったんだが、一足遅くて……」
「………捜せ」
 俺は腹の底から搾り出すような声で、そう言った。それを聞いたベルナルドはぴくり、と眉を上げる。
 ジュリオを連れ去った奴は、恐らくボンドーネだ。直感的に俺はそう感じていた。
 ボンドーネ家は名家だ。そんな名家の跡取りが、マフィアに嬲り殺された、となれば、面倒ごとも多いのだろう。
 それにあのジジイのことだ、どんなことがあってもジュリオを手放すことはないだろう。
「ボンドーネのクソジジイを捜せ……!それから、ジュリオを取り戻すんだ、ジュリオを……!」
 例えどんな形であっても、ジュリオを取り戻したかった。あんな奴の傍にいることはない。ずっと、俺の傍に置いておいてやるんだ……
 あの、可愛いワンコは、俺のモンなんだ……
「ジュリオ、ジュリオ……」
 俺は小さく、小さくあいつの名前を呼び続ける。頭の中では一緒に過ごした、たった数日一緒に過ごした思い出が溢れかえっていて。
 一緒にドルチェを食べて、アイスをたらふく食べて。それから、恐ろしい仕事だって一緒にした。ジュリオがたくさん人を殺すところを、死体に興奮するところを見た。
 それでも俺はジュリオから離れられなかった。どうしても、ジュリオを一人にはさせたくなかった。だって、あいつはずっと一人だったから。
 一人が寂しくてたまらない癖して、何でもないような顔して、たまに薬で誤魔化して。そんなジュリオがどうしようもなく、愛おしかった。一緒にいて、たっぷり甘やかしてやりたくなった。
 そしたらさ、あいつ、すっげぇ嬉しそうにしてさ……犬ッコロみたいに、尻尾振って……
 なのに、ジュリオは今、独り。真っ暗な世界の中で、独りきり。
「ジュリオ……寂しいよな、ジュリオ……すぐ、迎えに行ってやるから……だから―――!」
 泣かずに待っていてくれ、と俺は心の中で叫んだ。どんなに離れた場所にいたって、俺の叫び声、聞こえるだろう?そうやってお前はいつだって、俺のことを助けてくれたじゃないか。
 だから、きっとこの声だって届いているはず。お前と、俺は繋がっている。
「ベルナルド……ボンドーネを、ジュリオを捜してくれ、頼む……」
「ああ、もう手は回してある。だから、その……」
 ベルナルドは少し言葉を濁した。安心してくれ、だなんて安い言葉、コイツは言わない。
 その代わり、早く傷を癒してくれ、と言い残してベルナルドは席を立った。そして、俺の額をそっと撫でて、早くいつものジャンに会いたいよ、と言う。
 俺だっていつもの自分に戻りたい。でも、もうちょっと時間、かかりそうだな。最低、ボンドーネが見つかるまでは戻れないかも。
「お大事に、ジャン」
「グラーチェ……」
 ベルナルドの背中に手を振り、扉が閉まってから俺はもう一度、天井を見上げた。
「ジュリオ……ジュリオ……」
 祈るように、その名前を何度も口にして、俺は目を閉じた。



続く


あきゅろす。
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