天国から、愛する貴方へ4
ぎゅっと心臓が締め付けられて、呼吸が苦しい。自然と眉が下がって、目頭が熱くなった。
「ジュリオ―――……!ジュリオオオォォ!」
 俺は痛む体から思い切り声を振り絞って叫んでいた。体は悲鳴を上げたけれど、気にならなかった。それ以上に、胸が痛くてたまらない。
 事実を受け入れたくなくて、頭を抱える。嘘だろう?お前がもうこの世にいないなんて、嘘だろう?
 そんな俺に向かって、ベルナルドは小さな、小さな声である問いかけをしてきた。
「なあ、ジャン……ジュリオは、死んだ、のか?」
「………は?」
 俺は炭酸の抜け切ったコーラみたいな声を出した。……ベルナルドは、何を言っているのだ。
訳が分からなくて眉を下げると、ベルナルドは信じられないことを口にした。

「ジャン、落ち着いて聞いて欲しい。その……ジュリオの遺体が、ないんだ」

 ベルナルドの言っている言葉の意味を理解するまで、たっぷり五秒はかかった。その言葉の意味を理解した途端、それが俺の中に深く圧し掛かる。
 あの日、俺に重たい体を預けたジュリオのように……
「………な、に……言ってるんだよ……?ジュリオは、俺を庇って……それで……」
「その、だな……あの日、あのゴルフ場にお前たちを救援しに行ったイヴァンは、血まみれになったお前と、アレッサンドロ顧問を連れて帰ってきた……だがな、ジュリオの姿が見当たらなかった、と言っているんだ」
 ベルナルドの言葉が、温い水のように俺の頭の中に流れ込んでくる。更にベルナルドの話は続いた。
「俺とルキーノもすぐにゴルフ場に出向いてジュリオを捜したんだが……やはり、見つからなかった。ただ、お前を庇うようにして血溜まりが広がっていて……」
「ジュリオが、俺を庇ったんだ……手榴弾から守ってくれて、それで、アイツ、首に怪我、して……すっげ、血が―――……!」
 カタカタ、と体が震え始める。あの日の、あの情景が脳裏に思い出されて、俺は口元を押さえた。気持ちが悪くて、吐きそうだ。
 無理をするな、とベルナルドは背中をさすってくれた。俺は右手で口を押さえたまま、左手を動かす。それの意味をすぐに察したベルナルドは、そっと紙袋を俺に手渡してくれた。
 その中に胃液を吐き出し、俺は涙目で顔を上げる。ジュリオの命が消えていく瞬間を、俺は確かに見たんだ。
「すまない、ジャン……もう、無理はするな……」
「いい、から!最後まで、聞かせろ……」
「あ、ああ……それで、だ。ジュリオが自力で立ち上がってどこかに行ったのなら、足跡があるだろうと思って捜したんだけど、それが無い……そもそも、あれだけ出血している人間が自力で立ち上がれるのも難しいだろうと思って、ジャンの証言待ちだったんだが……」
 間違いないな、とベルナルドは低い声で言った。俺が見たことのないような凍てついた瞳でどこか一点を見つめて、腕を組む。
 俺は何のことだよ、と声を絞り出して聞いた。


続く


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