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生ぬるい微睡みの中、俺は隣が動く気配を感じて、薄く瞼をあけていた。
あの後、どうやらあっさり意識を飛ばしてしまっていたらしい。

「……ん、」
「お、ジャン……すまん、起こしたか?」
「もう、仕事か?」

ルキーノの朝は早いから、もう活動し始めてもおかしくない時間だ。
昨日の夜あんだけ頑張っといて、もうこんなにピンシャン動けるのが信じられない。
ぼんやりした俺は、ごそごそとシャツを羽織っているルキーノに手を伸ばした。

「うお、っと……どうした」
「昨日、ごめん……」

そう謝罪すると、ルキーノはうーん、と唸って俺の方に向き直った。
その顔は全く怒っておらず、それどころか微笑んでいてドキッとさせられる。

「なんで謝る、おまえは自分の希望を言っただけじゃないか」
「だ、だってよぉ……」

俺はもごもごと口ごもった。
ルキーノはただ、自分が楽しいからってだけではなく、きちんと俺を気持ちよくしてやろうって思いもあって、あんなエロいことしてきたんだしなぁ……
それに、何というか、してもらう側の俺が文句、っていうか注文付けたような感じで申し訳なくなった。

「なにを言っているんだ、このカヴォロ」
「あいてっ!」

こつん、と頭の上に優しくげんこつが降ってきた。
それはすぐにルキーノの大きな手のひらに変わり、俺の頭をぐしゃぐしゃとかき回す。
そんなことをされて、なんかもう泣きそうだ。

「あのな、二人ですることなんだ。お互い不満があったら気持ちよくないだろ」
「まぁ、そうだけど……」
「行き過ぎたわがままなら聞けないが、おまえのお願いとやらは可愛かったからな、不満なんてない」

優しく微笑んだルキーノは、そっと俺を抱きしめてくれる。
温かくて、気持ちいい。
やっぱりこの体温が好きだ。

「やっぱりあんたにこうやって触ってもらった方が、俺は安心するよ」
「ああ、俺もだ。ジャン、愛してる」
「……なに、恥ずかしいこと言ってんだよ」

たまにこういうことを言われると、恥ずかしくてやってられない。
しかし、見上げたルキーノの顔は至極真剣で、俺は笑ってしまっていた。

「分かったよ、もう……愛してるぜ、ルキーノ」

その言葉を言ったと同時に、ルキーノの目尻が下がって、顔の緊張も解れた。
なーに緊張してやがったんだ。

「……っあー!ジャンに愛想を尽かされたんじゃないかと冷や冷やしたぜ」
「んなところだと思ってましたよ、エロライオンちゃん」
「お見通しってか、憎い野郎だ」
「言ってろ」

くすくすと笑ってやると、ルキーノは珍しく照れたように赤毛をぐしゃぐしゃとかき回す。

「こう見えてだな、俺はおまえに首ったけなんだよ、ラッキードッグ」
「俺もあんたがいないと、枕がびしょびしょになるくらい好きだぜ」
「どっちかと言うと、下着をびしょびしょにして待っておいて欲しいがな」
「言ってろ」

いつもの調子、いつものルキーノだ。
俺は安心して、一つキスをプレゼントする。
そして、ヨレたシャツをぴしっと整えてやってから、にっと笑った。
やっぱりルキーノはいい男だ、俺の、ピカピカな部下だ。

「最高だぜ、ルキーノ」
「おまえにそう言われると、素敵なシニョーラ達の言葉もくすんで聞こえる」
「いやん、浮気はダメよ」

俺はルキーノの肩をぽんっと叩き、行ってこいの合図を出した。
ルキーノもそれを察して立ち上がる。
タイを片手にひっつかみ、ジャケットを羽織りながらまた、キス。
俺が贈ったような軽いキスじゃなく、濃厚なのをしてくるあたり、ルキーノっぽい。

「……ん、んぅ…!」

口の中を存分に味わったルキーノは、満足そうに笑うと、じゃあな、と俺の頭をかき回す。
この犬っころ扱いだけはどうにかならないだろうか。

「気をつけて」
「ああ、もちろん。帰ったら、また……な?」
「……ったく、発情ライオン」
「それだけジャンに触りたくて仕方がないのさ」

そういってルキーノは片手を振りながら出て行った。
そんな後ろ姿を見ながら、俺は震えていた。
なんなんだ、どうして最後にそんな台詞を吐いてくれるんだ。

「くっそ……」

俺は赤くなった頬を擦りながら、俺の方があんたに触りたいって思ってる、と見えない背中に文句を言ってやった。






終わり


あきゅろす。
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