もっと違うもの1
 俺はうんざりしていた。いや、げっそりしていた。……いや、それ以上に辟易していた、と言っても過言ではない。
 とにかく俺の、自分で言って悲しくなるくらい学の無い鳥頭を悩ませているネタがあった。それは、最近ルキーノがエロ過ぎる、と言うことだった。
 こんなことを言ったら馬鹿にされるか、逆にデレるんじゃない、と言って寒い目で見られるかどちらかであるのは分かっている。だがしかし、俺は真剣に悩んでいたのだ。
「……どうしたものか…」
 俺は腰掛け、じっと床を見て考える。どうせ今からあれだこれだとエロいことを仕掛けられるに違いない。
 あまりにも度が過ぎること……例えば変な玩具を尻の中に突っ込んだり、根元縛ってセックスしたり、最近はどんどんエスカレートするばかりだ。ルキーノ曰く、俺の反応が面白いからもっと苛めたくなる、とかなんやら言っていたが、俺としては……あまりなぁ……
 そりゃあルキーノとのセックスは気持ちいい。ルキーノのことは好きだし、触れ合いたいとも思う。だが、あまりにもアブノーマルなのはなんか違う気がするのだ。
 セックスと言うか、体で遊ばれているような感じがしてしまう。
「はぁ……」
 悩ましいため息が出てしまうのは不可抗力だ、致し方ない。
 ここを出るまでに何か打開策を考えておかねば、間違いなくやられる。間違いなく、だ。
「おい、ジャン!遅いぞ、クソか」
「ち、ちげぇよ!」
 ドンドン、と扉を叩かれて俺はびくりと背中を跳ね上がらせた。何でこんな反応をするかと言うと、つまり、俺は今トイレの中なのだ。
 エロライオンから逃れるため非難した場所がトイレだなんて、アホか。逆に密室だっつーの。
 とにかくこの場所から出て行かねば、待ちくたびれたルキーノに何をされるか分からない。……と、ここまで考えて俺は妙に悲しい気持ちになっていた。
 何が悲しくて大好きな恋人とのセックスに悩まねばならないのだ。ただ、好きだから好きなように抱かれるのはなんか違うし、俺なりの自己主張だってあって。
 きちんとルキーノには話さないといけない、そんなの分かっている。話をしなければ変な誤解を与えてしまって苦しくなるのは目に見えているのだ。
 でも、顔を見て話すのは怖くて、俺は扉越しにルキーノに話しかけた。
「それがさ……俺、悩みがあって」
「ほう、生理でもきたか」
「ちっげーよ!そうじゃ、なくてだな……その、セ、セックスのことで……」
 ああ?とルキーノが扉越しに訝しげな声を出した。すでに不穏な空気が怖い、扉越しに睨まれているのが分かる。
 だが、隠し事をしたってどうにもならないのだ。顔が見えない分、勢いだけで話してしまえ。それでルキーノが怒っても、俺はこの中に逃げていられる……だなんて、卑怯だな。
「感じすぎて怖いか」
「いや、そういう類じゃなくて、だな……」
 何処から話していいか分からず口ごもっていると、まどろっこしいのが嫌いなルキーノは早く吐いてしまえ、と要求してきた。
 俺なりの心の準備ってもんがあるのだが、ライオンは犬と違って待てが出来ないからなぁ……
「あのな、怒るなよ?」
「話の内容によるな」
 デスヨネー、だなんて返す余裕もない。どんだけ緊張しているのだ、ちょっとブルっちまってるし。
 俺は便座の上で膝を抱えると、その間に顔を埋め、小さな声で告白した。
「ルキーノが最近……エロ過ぎて、どうしたらいいのか分からない」
「はぁ?」
「だ、だってさ!この前は尻に張形突っ込むし、その前は射精できないようにちんこ縛るし!俺は、俺はだな……!」
「気持ちよくなかったか」
 そりゃあ気持ちよかったですとも!だがな、俺は別に気持ちよさを求めているんじゃない。そんな味気ないものじゃなくってさ……
「俺は、ルキーノの体温の方が、好きだ―――!」
 思い切って言ってみた、恥ずかしい告白。でも、言わなければ伝わらないこと。
 ルキーノは怒るだろうか、それとも呆れるだろうか。そんなの分からない。だって、扉の向こうからは物音一つ聞こえなくなっちまったんだ。
 急に俺は不安になる。果たして向こう側にルキーノはいるのだろうか、とか、呆れてものも言えない状態になってしまったのか、とか。返事がないのが、一番怖い。
「ルキーノ……?」
 か細い声で呼んでみたが、返事は無い。急激に不安になって、俺は唇を噛み締めた。
 愛想を尽かされた、と思った途端、じんわりと涙が滲む。雫は溢れはしなかったが、情けなくて悔しくて、こんなこと言うんじゃなかったと後悔ばかりが押し寄せる。
「ル、キーノ……ッ!」
 つい、情けない上擦り声が出た。その瞬間、いきなりドアノブが回る。
 がちゃがちゃ、と数度それは回ったが、鍵がかかっているため開かない。そんなの当然だ。
 諦めたのか、また静寂が訪れる、と思った瞬間だった。
「―――――ッ!」
 バァン!と盛大な音を立てて扉が開いた。俺が開錠したのではない。扉が蹴破られたのだ。
 もう驚きで息は出来ないし、瞬きだって出来ない。閉じることを忘れた口は半開きで、俺は呆けた顔で扉を突破してきた人物を見上げていた。
 そこにはもちろんルキーノがいて、俺を静かに見下ろしている。何を考えているのか分からない、静かな瞳がそこにあって、俺はどうしたらいいのか分からずにきつく膝を抱き寄せた。
「な、なんだよ……人が用を足しているところにずかずかと……」
「ズボンも脱がずに小便するのか、お前は」
「うっ……」
 痛いところを突かれて口ごもると、はぁ、とため息をついたルキーノに腕を掴まれる。あ、と思ったときには無理矢理立ち上がらされ、引きずられていた。
 いやだ、と抵抗したのだがルキーノは聞く耳持たずでどんどん俺を引っ張っていき、行き着いた寝室のベッドの上に俺を投げ転がす。おーい、俺はモノじゃないんですけど!
「な、にすん……ふ、ぅ……!」
 振り向き様に文句を言おうとしたのだが、口付けられて何も言えなくなっていた。塞がれた口の中に、ねっとりとした舌が進入してきて、俺は正気に戻る。
 俺は今エロイことをしたいんじゃなくて、話をしたい。なのに急にこんなことをしてきて、妙に腹が立った。
「ん、っはぁ!ちょ、待てよ!俺は怒ってるんだぞ!って、待て、ルキーノ……!」
 聞く耳持たずとは此のことか。俺の台詞をまるっと無視して、エロライオンはベルトに手をかけた。おいおいおい、これじゃあいつもと同じだろ……!
 やっぱりルキーノは怒ったのだ。気持ちいいのが好きなのに、何で文句をつけるんだって、怒ったのだ。自分勝手な奴め、と思って怒りがこみ上げる。俺だって好き放題されるつもりはない。
「ふっざけんな!このまま流してすむとでも、思ってんの、か……!あ、いや……!」
「ちょっと黙ってろ」
 怒っているのか、そうでないのかよく分からない平坦な声でルキーノはそういうと、俺の下着の中に手を滑り込ませる。何が悲しいかって、ルキーノに後ろから抱きしめられただけで勃起してしまっているのだ。
 興奮した性器に触れたルキーノは、それを前後に扱きながらもう片方の手で俺の尻の穴を探り出す。柔らかくもないだろう男の尻をゆっくり撫で回して、それから割れ目に指を滑り込ませて……
 



続く


あきゅろす。
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