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俺は参っていた。本当に、参っていた。
 なぜかって、俺の恋人であるベルナルドが大変、そりゃもうタイヘン変態だからである。先日の電話では本当にこいつが馬鹿で、変態で、ただのエロ親父であると、俺は学習した次第だ。
 なーにが変態にレイプされている、だ。いい加減にしろ。
 まあ、それでチンコおっ勃てて思い切り射精してしまった俺も完全に変態の仲間入りなわけだが……まあそれは置いておいて。まずはこの変態さんの更生を始めねばならない。
 ラグトリフに護衛されて無事にデイバンに帰ってきた俺は、すぐにベルナルドの執務室に赴いていた。なぜかって?そりゃあもちろん、例のレコードが処分されているか調べるためである。
 がちゃり、とドアを開ければ相変わらず鳴り響く電話の山の中に、俺の恋人は埋もれていた。横目でちらり、と俺の存在を確認した彼は軽くウィンクを俺に投げて寄越すと、また視線を手元のメモに戻してしまう。
 くそう、なんだか妙な気分だ。
 漸く電話を終えたベルナルドは、ふう、と一息ついてから、俺の方を向く。そして、安心したように微笑むとお帰り、と言ってくれた。
「やあ、マイスウィート……無事でよかった、会いたかったよ」
「ダーリン、私もよ……と言いたいところだがな、早速確認したいことがあるんだよねー、バーニィ」
「おや、その呼び方はよしてくれ……それで、聞きたい事とは?」
 ん?と気取って首を傾げられたが、お前、分からないだなんて言わせないぞ。忘れただなんてほざいてみろ、カポ命令でそこに全裸で跪け。
 俺は例のレコードは?とにっこり笑ってベルナルドに問うた。そりゃあもう、怖いくらいの笑顔で。
 その単語を聞いたベルナルドの顔が一瞬ひきつる。おおう、その顔はまだ所持しています、って顔だな。今すぐそれを出せ、そして俺の前で割るか燃やすか、もしくは捨てろ。
「その……だな。まだ、使ってないから、その……一度、聞いてからが、いいかな、なんて……」
「なーにふざけたこと言ってんだベルナルド!そんな恥ずかしいものは今すぐ捨てろ。お前が出来ないなら、俺がする!」
「う、ま、待て……分かった、分かったから……!」
 ついに観念したエロ親父は、本当に、本当に残念そうに本棚の中に隠されるように入っていたレコードを取り出した。それを今すぐ俺に寄越せ。
 しかし、ベルナルドは何を思ったか、それを再生機にセットし始めた。おい、何をするつもりなのかな、このちょいダメ親父は。
「おーい、バーニーちゃーん……何をするおつもりかな?」
「まだ俺も聞いていないんだ……折角だから、一度聞いてから捨てようと、思って……」
「お、前―――……」
 本当にダメ親父だ、しょうもないエロ親父だ。今すぐその生え際をバリカンで剃ってやりたい。
 俺はぎろり、とベルナルドを睨みつけてやったのだが、その睨みはベルナルドには届かない。視線は再生機の上に乗っかっているレコードに釘付けだ。しかも、目をきらきらさせやがって……子どもか。
 はぁ、と溜息を漏らした俺は、つかつかと歩いていって針がレコードの上に乗ってしまう前にその一連の行動を阻止しようとしたんだ。しかし、ベルナルドの方が早かった。
 ジジ……、と音がして、レコードの再生が始まる。おい、まずいだろ!
 慌てた俺が伸ばした手はベルナルドにつかまれ、敢え無く撃沈。わーお、コレはジャンさんピンチ!
「お、おい……今、聞くな……!」
「しかし、だね……録音されてしまった本人も、ここに立ち会うべきだとは思わないかい?」
 そんなこと一ミリ足りとも思わないのだが、ベルナルドは楽しそうに笑ってコレはコレで楽しそうだ、と愉快そうに笑っている。おいおい、まずいって……!
 ベルナルドの言葉攻めに感じて、どんどん興奮していく俺の恥ずかしい声が部屋の中に響き渡る。嘘だろ、このときは自分で扱いていただけだって言うのに、変な、高い声上げて……!
「ただのオナニーとは違うからね……俺に、レイプされていたんだよ、ジャン……」
「ち、違う……!あ、いや……!」
「何でこっちは元気になっているのかな?コレを聞いて、興奮したかい?」
 それには違う、とは言い切れなかった。ベルナルドの言うとおり、俺はこの恥ずかしい音源を聞いて興奮してしまっていたのである。ああ、ジーザス!
 ごそ、と俺の股間をスラックスの上から撫で上げたベルナルドは喉の奥でく、と笑うと楽しそうに言った。
「どうだい?ジャンもタマの中でアレが作られる音、聞こえた?」
「んなの、聞こえるか……!」
「俺には聞こえたよ……ここ、凄い勢いで真っ白いのが溜まっていってる……これからヘンタイに犯されるのを期待して……恥ずかしいね、ジャン」
 ばか、恥ずかしいのはお前の頭だよ!と叫びたかったが、もう言葉にならない。嘘だろ、俺、既にフルボッキ!いやーん、今すぐ出そう!……じゃねぇ!
 ボケてる場合か、と自分に突っ込みをいれつつ、俺は腰を捩るとベルナルドから逃げようとした。帰ってきてすぐ、しかも仕事中のベルナルドのこの部屋は頻繁に彼の部下が出入りしている。
 幹部筆頭であるベルナルドは大事な仕事をたくさん任されている……といっても自分から引き受けている数の方が圧倒的に多いとは思うが、とにかく仕事がたくさん、部下の持ってくる書類もたくさん、なのだ。
 こんなところ誰かに見られてみろ、カポをレイプした罪で豚さんに食べられちまうぜ!自分の部下である掃除屋に処分されるだなんて情けない話があるか!
「お、い……ってば!ベルナルド、いい加減に……!」
「大丈夫……お前が帰ってきたらこのフロアには立ち入らないように指示しておいた」
「空気読めないイヴァンなんかが帰ってきたら、どう、するんだ……!」
「あいつはロザーリアお嬢様と晩餐会だよ。暴言吐きながらカヴァッリ顧問に引きずられて行った」
 ああ、ご愁傷様なこって……
 とにかく、このフロアは無人で、俺たち以外は立ち居らないことになっているのか……やれやれ。
「……分かった、分かったから、さ……」
 俺はぽん、とベルナルドの肩を叩くと、そのまま腕を背中に回した。やっぱりさ、俺だって随分長い間ベルナルドと離れていて寂しかったし、心細い思いだってしたんだ。
 ただの部下じゃない、恋人であるこいつに求められるのが嫌なはずが無い。むしろ、嬉しいんだ。
「なぁ、ベルナルド……本物の俺はここにいるんだぜ?なのに、そーんなレコード聴くの?」
「ん……あ、そうだね、無粋だった」
 俺の言葉の意味を理解したベルナルドはすぐに再生を止めて、俺を抱きしめ返してくれる。ふわり、と奴の髪からいいにおいが漂ってきて眩暈がした。
 あ、と思った時には抱え上げられてソファにダイブする。ふんわりとソファに抱きとめられて、俺は薄っすらと目を開けていた。
 思った以上に余裕の無い表情をしたベルナルドは、やっぱり本物の方が興奮するね、と一人で何か納得をしている。そんなのどうでもいいから、俺にくれよ、お前の全部。
「言われなくとも、そのつもりだ。俺は全てお前のもんだよ、カポ・デル・モンテ」
「………ばーか、恥ずかしい呼び方すんなよ」
 改めてそんな呼び方をされると恥ずかしいものがある。俺はそれ以上言ってくれるな、と呟くと、それより早く欲しいとばかりに腰を捩った。まずい、これ以上待たされたくない。
 俺は熱くなっている下半身をベルナルドの下半身に擦りつける。俺と同じように勃起したそこは熱を持っていて、布越しにそれが伝わってきそうだ。
 もう早く直接触れ合いたくてたまらなくなり、俺は早々にベルトに手をかける。もそもそと服を脱ぎ始めた俺を見て、ベルナルドは嬉しそうに目を細めると、自分も服を脱ぎにかかった。
「全く……ジャンは我慢がきかないね」
「ベルナルドにだけは言われたくないね、このムッツリスケベ」
「そんなスケベが好きなのは、どこのどいつかな」
 お互いがお互いをからかいながら服を脱ぎ捨てると、思い切り抱きしめあう。ああ、暖かくて気持ちがいい。
 ぬるん、と下腹をこすれていく濡れた感触に興奮が高まる。ベルナルドのペニスは完全に勃起していて、それは俺に欲情した結果なのだと思うと、更に嬉しくなった。
 ベルナルドは俺のペニスと自分のペニスを一緒に握り締めると、このまま扱いてもいいかい、と聞いてくる。聞いたってどうせ自分のやりたいようにするに決まっているから、質問する意味なんか無いのにな。
「……好きに、しろ」
「では、お構いなく」
 にや、と笑ってからベルナルドは裏筋同士が擦れ合うようにペニスを扱いてきた。強烈な快楽が背筋を突き抜けていき、背筋が仰け反る。
 どっと先走りがあふれ出して、足の痙攣が止まらない。ぬるぬると滑るたびに熱くてたまらなくなり、眦に涙が滲んだ。
 一番感じる柔らかな先端部分を指先で抉られ、とぷりと我慢し切れない先走りがあふれ出す。恥ずかしい嬌声が止められずに、俺は頭を振り乱した。
「あ、あぁ!ひ、うぁ……!」
「随分……、感じている、様子だね、ジャン……」
「だ、って……!気持ち、イ―――!」
 親指で先端を抉るように押される。腰が痺れたように震え上がって、涙がこぼれた。
 久々に感じる恋人の体温や匂い、優しさについ切なさがこみ上げる。本当はずっとこうしたかった。抱きしめられて、好きだと囁かれて、ずっと一緒だと感じさせて欲しかったのだ。
 こんなどろどろの世界に生きていて、ずっと一緒だなんて確証はどこにもない。いつ、どこで、どのようにして、誰が死ぬのかなんて分からない世界なのだ。
 特に俺のようなラッキーだけで成り上がったようなカポは、舐められて命を狙われやすいからな。いつ死んだっておかしくないのだ。
 だから、今のうちにたくさん感じておきたい。今自分がここに生きて、誰かを愛して、狂おしいほどに切ない気持ちになっているということを。
「おい……どうしたんだい、ジャン」
「う、ぁ……?」
 何が、と聞こうとして頬をそっと舐められる。何をするんだとぼんやり尋ねれば、悲しそうに泣くからどうしたのかと思ったんだ、と苦笑気味で答えられた。
 情けない、セックスの途中で泣くなんて。
「ジャンが気にすることではないよ……それに、そこまで思われているのかと思うと、俺としては嬉しくてたまらない」
「いつまで一緒にいられるのかな、俺たち……」
 それを聞いて少し困った顔をしたベルナルドは、うーんと少し考えてから、コレはどうだ、とウィンクをした。
「こんな世界に生きている俺たちには、永遠なんて確証はどこにもない。だからな、これから二人で会うときは毎回最後のセックスだと思ってすればいい。燃えるだろう?」
「……いや、むしろそれは悲しい」
「あ、そうか……」
 言われて見ればそうだ、と眉を下げたベルナルドを見てついつい笑いがこみ上げる。本当に、ちょいダメだよなぁ。
 ふわ、と両頬を包むように手のひらで触れれば、不思議そうな顔をしたベルナルドに首を傾げられた。どんな表情でも愛しくて、ついつい笑みがこぼれる。
「どうしたんだい、ジャン……」
「あんた見てると安心した、大丈夫だ」
 ならいいが、と少し納得いかなさそうな顔をしたベルナルドを安心させるように抱きしめて、背中を叩く。ベルナルドはいつも一生懸命俺のことを考えて、守って、愛してくれている。
 それを感じだだけで、もう十分だった。
「愛してる、愛してるよ、ベルナルド」
「ああ、俺もだ」
 きつく抱きしめ返されて、胸の中がほっこりと暖かくなる。もう、絶対にこいつのことは離さない、と思いながら、俺はふと思ったことを口にした。
「とりあえず、俺がいるからあのレコードは用なし、だよな?」
「…………うっ、その……」
 あーあ、馬鹿め。
 モノホンの俺がいるんだから、あんなもの、さっさと捨てちまえ、な?







おしまい



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