午前零時宣戦布告サンプル2
 翌日、僕は閣下からの着信で目を覚ました。室内に響き渡る電子音を鬱陶しく思い寝返りを打ったのだが、はっとして飛び起きる。
 慌てて通話許可を下ろすと、いつまで寝てるのよ!と怒鳴られた。すみません、と慌てて謝罪してどういったご用件でしょうか、と尋ねる。すると彼女は古泉君みたいな奴がもう一人いるのよ、と苛立った声で言った。
「キョンよ、キョン!昨日休ませてやるとは言ったけれど、こんなに寝てていいだなんて言ってないわ!何度コールしても全く反応ないし、ちょっと見てきて頂戴!」
「それは構わないのですが、三十分猶予を頂いてもよろしいでしょうか」
 なんてたって僕も寝起きだ。髪の毛だってぐしゃぐしゃだし、シャワーだって浴びたい。そこまでは言わなかったが、理由を把握した閣下は仕方が無いわね、なるべく早く支度をして頂戴、と言って通話を切った。
 はぁ、と溜息をついた僕は大急ぎでシャワーを浴び、身支度を整えて二十分後には部屋を飛び出していた。こんなに早く支度したのは初めてだな、最高記録かも知れない。
 そんなくだらないことを考えながら特攻隊への入艦許可をもらうと彼の自室へ向かう。事情は閣下から話が行っていたらいく、スペアキーまで渡されてしまった。
 一体彼はどんな格好で寝ているんだろうかと思った僕は、もし全裸だったらどうしようかと一瞬背筋を冷たくする。いやいや、それは無いだろう。落ち着けって。
「作戦参謀、失礼します」
 部屋の前に到着した僕はとりあえずノックをして、彼が起きているかどうかを確認した。しかし、もちろんのことながら反応も無く、扉は静かに僕の前に鎮座するのみ。
 仕方が無い、と諦めた僕はポケットからカード状のスペアキーを取り出して認証ボードにタッチした。すぐに認証されて開錠した扉は音も無く開いて、僕を招き入れた。
 部屋を見渡してみたのだが、彼の姿は見当たらない。ベッドで寝ているのだろうかとベッドルームにも顔を出してみたのだが、姿は無くて僕は嫌な予感に背筋を冷たくしていた。
 洗面所、風呂場を覗いても、書斎を覗いても彼はいなくて、僕はどうしようかと腕を組んだ。この状態を一言で表すと。
「逃亡、ですかね」
 そんなまさか、と思ったとき本棚の前で物音がする。はっとして本棚の前に駆け寄ってみると、大量に積まれた本の中に倒れるようにして眠っている彼を発見していた。用兵学の専門書を読みながら寝てしまったのだろうか。
 あまりのも乱雑な中にいたから気づかなかった。
 僕はぐったりとしている彼の肩を揺すって起きて下さい、と声をかける。しかしよっぽど眠りが深いのか、彼は全く反応を返してくれずに眠ったままだ。やれやれ、と学生時代の彼の口癖を思い出しながら、少し青ざめた彼の顔を見つめる。
 もっと健康的な人だった気がするのに、僕がこんなになるまで追い詰めてしまったのだろうかと思うと心が苦しくなった。そっと頬を撫でてかさついた、少し白っぽい何かが流れた後を辿る。それは彼の眦に繋がっていた。
「ん………」
 漸く彼はうめき声を上げて瞳をあけた。ぼんやりとした目で辺りを見渡し、それから僕の顔を確認してこいずみ、と小さな声で呟く。
「こいずみ、だ……古泉……」
 彼は何故だか浮ついた声でそう言うと、目の前にしゃがみ込んでいた僕に抱きついた。
 一瞬の事だから分からなくなって僕は目を見開く。え、としか言葉が出なくて、彼を抱きしめ返そうか戸惑った腕が空中で揺れた。
 彼はそのまますう、とまた寝てしまいそうになったから、慌てた僕は肩を揺すって起きて下さい!と大きな声で言った。ぽん、と背中を叩けば漸く意識がはっきりしたのか、彼は目を大きく見開いてえ?と僕の顔を見る。
 状況を把握していない彼に、閣下が早く起きなさいと怒鳴っていらっしゃいましたので起こしに来ましたと簡単に伝えると、彼は慌てて僕に回していた手を離して失礼しました、と頭を下げた。
「分かっていただけたなら早く支度をして下さい。作戦会議を開くようです」
「承知しました……」
 彼は渋々立ち上がると、乱れた頭をくしゃくしゃとかき回して。
「あれ、何で俺幕僚総長に抱きついて……?」
 と、自分でも訳が分からないという風に首を傾げている。それは僕にだって分からない。まあ、その不可解な行動が僕の心を激しくかき乱したのは言うまでもないのだが。



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