我慢、する


時計の針は12時を回り、とっくに真っ暗になるはずの暗闇を眩しいネオンが照らし出す。
そんな夜の歓楽街をふらつく一人の男の影。
彼は大通りの端っこを目立たずゆっくりと歩く。
時々顔を上げては何かを探すような仕草を見せて。
しかし、目的の何かを発見できなかったのか、また俯くとゆっくり裏路地に消えていった。











我慢、する











裏路地に入ったその男はおぼつかない足取りでさらに奥へと進んでいった。
途中で何度か風俗関係の勧誘を受けるが、困ったように笑うと手を振って断る。
それを繰り返しながら歩いてはいたが、さすがに奥に入りすぎたのか。
倉庫のようなもの、ガレージを下ろした店、怪しげなホテルばかりになってきた。

「どこだここ…」

あてもなく歩いたせいでここがどこなのかよく分からない。
とりあえず引き返そうときびすを返した時だった。

「何やってんだ、お前」
「あ……」

はっとして振り返るとそこには逢いたかった男が立っていた。

「リボーン…」
「なんだ、体が寂しくなってハメてくれる奴探しに来てたのか?」

馬鹿にしたように鼻で笑うとリボーンは少しだけ屈んで、ランボに視線を合わせる。
試すような視線に悲しくなって涙が滲みそうになったけれど、我慢。

「今日は…女の人とは一緒じゃないんだ?」
「ん、あぁ。さっき別れてきた」
「あ、そう…」

可哀想に、リボーンの餌食になってしまっただなんてご愁傷様だ。
ランボはそんなことを考えながらリボーンの横を通り過ぎる。

「別にもう何もないから俺は帰るよ」
「そうか」

一言だけそう返され、引き留められなかったことにちくりと心が痛む。

アンタに逢いたくてふらついていたって気づいてるくせに。

読心術が得意なんだろ?と心の中で皮肉に思っていると後ろから笑う気配が。

(今のだって分かってて笑ってやがる)

むっとするが、振り向かずに元来た道を戻る。
イライラしながら歩いていたせいか、いつの間にかリボーンがいなくなっていることにも気づかなかった。
戻ってきた喧噪の中でリボーンを探すが、見あたらない。
いくらネオンが暗闇を照らしだしていても、あの漆黒のスーツに身を包んだ殺し屋を照らし出すことはなかった。


てっきりリボーンはランボの後ろをついてきていてくれると思っていたのに。
この思いは彼には伝わっていたはずなのにと思うと切なくなる。
しかし、じわりと熱く滲んだ涙をシャツの袖で拭うと。

「がま、ん…」

そう一言だけ呟いて、ランボはアパートに向かった。















真っ暗な部屋に帰ってくるとランボは電気もつけずにベッドにダイブした。
知らず知らずのうちにまた涙が眦に滲み出すが、ランボはシャツの裾でぐっとぬぐい取る。
会えて、言葉を交わせただけでも十分じゃないか。
会えないよりかはましじゃないか、よかったんだ。
そう言い聞かせてランボは頭から布団をかぶった。












どのくらい時間がたったのかはわからない。
ただ、人の気配がしてランボは静かに目を開けた。
いくら中小ファミリーだとしても、ランボはそこそこ名の知れたヒットマンだ。
命をねらってくる奴なんてごまんといる。
とにかく気づかれぬよう、ランボはいつも肌身はなさず持っている銃を胸元から取り出し、時を待った。
しかし、向こうはただこちらをじっと見ているだけで近づいてもこないし、ましてや殺気も感じない。
ランボはどうしようかと迷ったが、心を決め、ばっと身を起こしながら相手に向けて銃を構えた。

「寝ていたからって気づかないわけがないだろう?貴様、なにも、の…」

月明かりで相手の顔が徐々に映し出されるにつれ、ランボの言葉は尻すぼみになっていく。

「リ、ボーン…」

持っていた銃がカタカタと震え、そのままそれを取り落とす。
リボーンはニヤリと笑うと一歩一歩ランボに近づいた。
暗闇から近づいてくる男が恐ろしくなり、ランボは少しずつ後ずさる。
しかし、ベッドヘッドまで追いつめられたときには既にリボーンはランボの上におおい被さっていた。

「…ねぇ、これなに?」

ふと目に付いた襟元のキスマーク。
さっきあったときにはなかったのに。
それに、リボーンのものではない女物の香水の香りがする。
もしかして。

「さっきまで女の人といたの?」
「あぁ」

悪びれるわけでもなく、素っ気ない返事を返されて、胸がぎゅっと締め付けられる。

俺の気持ちに気づいていたくせに、それなのに会いに行っていたんだ。

涙があふれそうになったが、もう我慢はできなかった。
それと同時にこの男に対して怒りがこみ上げる。
気づいたときにはランボは手を振りあげ、リボーンを殴っていた。
右手のひらがじんじんと熱を帯び始めた頃になって、ランボははっとする。
未だ殴られたままの形で固まっているリボーンを見てランボは逃げだそうと身を起こしかけた。
しかし、首元をがっと捕まれ、ベッドに引き戻される。

「あっ、がっ…!」
「テメェの分際で俺を殴りやがったな」

鋭く睨みつけられると、ランボは息をするのも忘れてただ震えることしかできない。
途端、ランボは右の頬に衝撃を覚える。
吃驚して目を見開いていると次は左の頬に。
何度も何度も、口の中に鉄の味が広がってもリボーンはランボを痛めつけた。

「はっ、ぐぁっ!」
「まだまだだぞ、この野郎」
「ごめん、ごめ、ア゛ゥッ!ウェ、ゴホッ!許して、許し…」

流れた涙と血でランボの顔はぐちゃぐちゃになっている。
その上、首を絞めあげられて顔は真っ青になっていた。
その様子を見てから、リボーンはゆっくりと手を離す。
やっと終わったのかとランボが息をついたのも束の間、リボーンはランボのズボンを引き下ろし始めた。


もう、止める元気なんてなかった。

やっぱり俺はリボーンの玩具なんだな、と頭の中でぼんやりと思う。






無理矢理突っ込まれてランボは顔をしかめた。
あまり慣らされることもなく、キチキチなそこは僅かに血の涙を流している。

「少しは力抜け…ッ」
「む、り…!おなか、苦しい…」

リボーンの長くて太いそれはランボの内壁を容赦なく押し広げ、圧迫感を与えた。
それでもリボーンは動こうとぎりぎりまでペニスを引き抜くと、一気に突き刺す。
苦しげだったランボの声は徐々に甘くとろけはじめ、萎えたままだった性器もそそりたち、滴を流した。

「いてぇのに感じやがって、変態だな」
「違うっ、アッ、ア、アゥウ!」

そのまま性急に攻められ、ランボは限界に近づく。
リボーンのセックスはいつもしつこく、イキたいのにイかせてくれないのが常なのに。
こんなセックスには慣れていない。

「イ、イク!だめっ、ダメダメダメぇ!」
「─────ッ!」
「あっ、アアアァア!」

頭の中が真っ白になる。
もうなにも考えられなくてランボは意識が薄れて行くのを感じた。



薄れる意識の中でリボーンのにやりと笑った顔が見える。






その笑顔をみて、ランボは諦めたように目を閉じた。






こんな扱い受けてるのはきっと俺だけ。


なら、それはそれでいいじゃないか。


この状況に我慢さえ、我慢さえすれば。

そうすれば






少しは幸せな気持ちにだってなれるんじゃないか、なんて思った。








end











ランボさんの口癖が我慢の理由。

いくら自分の気持ちをリボーンに分かってもらおうと思っても無駄だから。
だったら我慢して、自分の気持ちを押し殺してリボーンに好きにされる方が相手にされると思ったから。


なんか不憫。


健気なランボさんが大好きです。




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