愛のシルシ9
やめろといくら言っても古泉は聞く耳持たずで自分のやりたいように弄ってくる。
気分じゃないと言っても所詮は快楽に弱い体、すぐにそこを熱くさせてしまった俺はいやだ、と言いながら身を捩った。

「もうこんなにこりこりじゃないですか……」
「だから、気分じゃ、な……!」
「……誕生日の夜以来してないじゃないですか、僕、我慢の限界です」

言われて見れば確かにそうだ。
あの日から古泉に抱かれていないし、そもそも俺が一方的に気まずい思いでいるから会話もいつもの半分程度。
確かに古泉としては不満を漏らしたくなるような状態だったのだから仕方があるまい。
しかしだ、俺はまだそこまで気持ちが行っていなくて―――!

「や、やぁ……!」
「ねぇ、本当に僕が好きなら抱かせて下さい」

なんだその言い方、卑怯だ。
大好きだし、それ以上に愛してる。
でも、俺の今の気持ちは考えてないんじゃないか、それ。
いや、でも隠し事してる俺も悪い。
赤ちゃん欲しいだなんて言ったら古泉は困ってしまう。
どうしたら良いのか分からなくて苦しくて、不意にぼろ、と涙が溢れ出す。
それを見た古泉はびっくりして目を見開いた。

「……すみません、考えなしでした……」
「…う、ひっく……違うんだ、違う……お前は悪くない―――!」

古泉に抱きついて胸板に顔を擦り付け、溢れてくる涙をごしごしと拭う。
古泉はすみません、だなんて言いながら俺を抱き返してくれているが、お前が謝る必要なんてないんだ。
同性同士の結婚なんだから妥協しないといけないことがあるのは十分承知で、それで結婚したんじゃなかったのか?
俺はそんなことに捕らわれて、本当に大切なものを逃がしてしまっても良いのか?
そんな訳ない、自分から手放すなんて考えられない。

「古泉、好きだ……」

小さくそう呟いて唇に軽くキスを落とせば、古泉は目を細めて俺にお返しのキスをくれる。
古泉の唇は柔らかくて、優しくて大好きだ。
もっと、もっとと自ら舌を絡めて深く求めれば、戸惑い気味にキスを深くしてくれて。

「……良いんですか?」
「いいよ、お前のこと、本気で好きだから」

俺もごめんな、と謝れば古泉は我儘でごめんなさい、と呟いて首筋に口付け、その場所をきつく吸い上げた。
ちりり、と痛みが走って顔をしかめれば、唇を離した古泉にくすりと笑われて。

「あなたが僕のものだっていう証です」
「なんだそれ」

思わず笑ってしまう。
そんな証、俺にはいらないだろう?
むしろ必要なのはお前の方なんじゃないのか?
でも、俺にはそんなことする勇気は無かった。
少なくとも、今は。

「僕には下さらないんですか?」
「お前、調子乗るだろう?」

そう言ってどうにか濁すが、胸が痛む。
古泉は俺のものだって世界中に叫びたい、だけど、そんなこと出来ない。
だって、俺は男なんだから。



続く


あきゅろす。
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