あなたの手を取って10
 僕の距離感がおかしいとでも思ったのだろうか、彼は恐々と僕の顔を見上げるとなんか先生おかしくねぇ?と言った。
どこがどうおかしいのかはっきり言ってくださらないと、それに対するコメントが出来ませんよ。

「だから……俺、男なのに可愛いとか、顔近いし、気持ち悪がってる様子もないし……」
「ええ、だって僕も同性愛者ですから」
「ええぇえ……!?」

 彼はびっくりしたように大きな声をあげて、目を丸くしている。
そんなにびっくりしなくても、先ほどまでの動作で気づいてくれても良かったと思うのだが……
 意外でしたか、と尋ねればこくこくと何度も頷く。
そんなにびっくりしなくとも、あなただって同じだろうに。

「お、俺……まさか、先生がそんなだって知らなくて……!」
「まあ分からないでしょうね」

 苦笑してそういえば、彼は目をきらきらさせて僕を見上げてくる。
いきなりそんな顔をされてどうしたのだろうかと、今度はこちらが面食らってしまう。

「だったらさ、その、俺にも……希望って言うか、その、あるのかなって思って……」
「あなたね……」

 はぁ、と溜息をつきながら言えば彼は慌てたように両手を振りながら言い訳をした。

「ふ、不謹慎だってのは分かっているんだ!ただ、なんか……うん、ごめんさない」

 ぺこ、と頭を下げた彼は、頭を下げたまま話を始める。

「さっきまで凄く寂しくて、このまま死んじゃうじゃないかって思ってたんだけど、先生に構ってもらったおかげで気が楽になりました」
「お父さん……」
「一人で頑張ってみようと思います。で、寂しくなったらまた遊んで下さい」

 ゆっくりと顔を上げた彼は、今度は無茶して飲みまくったり、変なこと要求したりしませんからと言って笑った。
どうやら次から彼は節操なしなことは控えるらしい。
 それを聞いて僕は何だか複雑な気持ちになっていた。
それって僕のハートをゲットしようと頑張ることはやめるっていう、そう言うことなんだろうか。

「つまり、次会うときは僕とあなたは普通の友達なんでしょうか」
「え、っと……先生と保護者でもなくなるからそうなんじゃないの?」
「それは、嫌です」
「え……まだ、先生って呼んで欲しいの?」

 何を勘違いしているのだろうか、そんな訳ないでしょう。
僕が求めているのはあなたの気持ちであって、それ以外いらないんです。

「僕を好きになるのはやめるんですか?」
「………え?」
「そんなの、面白くないじゃないですか。僕のこと、好きでいてくださいよ」

 そういえば、彼は目を真ん丸くして。

「じゃあ先生は俺のこと、好きになってくれんの?」

 と、言った。
言葉に、詰まる。
 彼は真剣な眼差しで僕の顔を覗き込むと、僕の手を取って。

「先生が俺のこと、少しでも好きでいてくれるのなら、」

 本気で好きになっちゃうかもしれない。

 一瞬で、恋に落ちたのは二十七年間生きてきて、初めての体験だった。




終わり
 


あきゅろす。
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