茨の海


酷く頭が痛い。
そして腕もチクリ、と痛んだ…





茨の海







今日も一人冷たいシーツの上で体を丸める。
愛しいあの人は今頃愛人の元にいるのだろうか。
それとも仕事で人を殺めているのだろうか。
ぼんやりと考えるが、酷い頭痛で考えるのをやめた。

あぁ、くだらない。

ランボは重い体を無理矢理起こすと、ベッドの下に乱雑に散らばった自らの服を身につけ始める。
しかし、下着をはこうと立ち上がった瞬間に太股を流れ落ちたなま暖かい液体にため息をついた。
あの男はいつもそうなのだ、ヤッたらヤリっぱなして出ていく。
はじめの頃は悲しくて苦しくて涙を流したものだったが、今ではもう馴れた。

「シャワー、浴びなきゃ…」

そう言って立ち上がるとおぼつかない足取りで風呂場に向かう。
しかし、ぐらりと視界が揺らいでランボの意識はぷっつりと途絶えた。













誰かに呼ばれている気がする。
別にそんなに呼ばなくたって俺はここにいるのに…
そういって答えようとするのに、返事をしようとするとズキリ、ズキリ、と頭が痛んだ。

しかし、その後すぐに腹部に激痛を感じて目が覚める。


「ウェッ、あっ、ゲホッ…!」
「いつまで寝てんだ、アホ牛」

痛む腹を抱えながら声がしてきた方を見上げた。
そこには暗闇にとけ込むような真っ黒いスーツを身につけた男が。

「……リボーン…ケホッ!」

弱々しく男の名前を呼ぶ。
すると暗闇の中でうっすらと彼の笑う口元が見えた。
その笑みにゾクリと嫌な予感がする。
それはすぐに予感ではなく、現実に変わった。

横たわるランボを乱暴に抱えあげたリボーンは、今朝までお互い抱き合ったままぐちゃぐちゃになっているベッドにランボを投げる。
そして、体の上に乗り上げると足の間に割り込んだ。

「やっ、今は───!」

今はしたい気分じゃない。
涙ぐんだ瞳でリボーンを見上げると、彼の胸元を弱々しく押し返す。

だってほら、リボーンの顔も歪んで見えるくらい頭が痛いんだ。

しかし、リボーンはガッとランボの首元を締め付けると機嫌の悪い声で一言発した。

「格下が俺に口答えしてんじゃねぇ」

その言葉にさらにズキリと頭が痛んだ。









「アッ、あ、あー!」
「今日の朝まで絞り出してやったのに元気なもんだ」

ランボの性器をぐちゃぐちゃといじりながら、満足げに笑う。
丸見えの後ろの孔もひくついていて、早く刺激がほしいと言わんばかりだ。
リボーンはランボの先走りでぬるついた長い指を一気に三本ねじ込む。

「ヒッ───ッ!ア゛、やぁああぁ!」
「何が嫌だ、ぐっぽり飲み込みやがって」

そのまま指をぐりゅっ、と一回転させてやるとランボは腰をビクつかせて軽く精を飛ばす。
後孔には昨晩中に吐き出した精液が残っていて、コポコポと溢れだした。
乱暴にかき回せばかき回すほどそれは入り口を濡らし、解していく。
あっと言う間に緩くなった後孔に、リボーンは笑った。

「オイ、アホ牛…テメェのケツ穴はもうユルユルだぜ?」
「アッ、いやぁ…リボ…ン、もう挿れて…」

はぁはぁと荒く呼吸を繰り返すランボの焦点はすでにあっておらず、口の端からは唾液が流れ出していた。
完全にできあがった状態のランボをみて、リボーンはくちゅりと自らのペニスをあてがう。
そして一気に挿入した。

「うあ゛っ、ア゛────ッ!」
「おっ…と」

シーツを強く握りしめ、顎を反らしてランボは達しかける。
しかし、ぎゅっと根元を戒められてそれは叶わなかった。

「なんでっ、なんでえぇ!イキたい、イかせてェ…!」

頭を左右に振り、ランボは達したいとリボーンに懇願する。
しかし、それは聞き入れられるはずもなく戒められたまま揺さぶられた。
前立腺を長大な凶器でこすりあげられるとたまらなくてランボは狂ったように鳴き続ける。

「らめぇ、らめっ!死んじゃう、死んじゃ…ヒィッ、い、アアァ…!」
「なら死んじまえよ」

そう言うと、リボーンは根元の戒めを解き、代わりにランボのペニスを乱暴に扱いた。
自身の動きも早め、高みに向かう。
何かが破裂するような音を立てて最奥を叩きつけるとランボは悲鳴を上げて達した。

「ア゛ッ、ひああぁあ!」
「くっ…」

ランボに少し遅れてリボーンも中に欲望を吐き出す。

中が暖かいものに満たされて行くのを感じながらランボは意識を手放した。











呼吸が苦しい。
足下を見ると茨の海が。
そっと首に巻き付くものに触れてみるとそれも茨だった。
ぎゅっとそれを握りしめてふりほどく。
手から血が流れても気にならなかった。
すべての茨をふりほどくと一歩を踏み出す。
チクリと足の裏が痛むが気にならない。
また一歩、一歩。
どこに向かっているのかも分からぬまま、彷徨い続ける。








はっと目が覚めた。
息が荒い。
頭が痛くて、気持ち悪い。
頭が痛いだけじゃない、胸が痛い。


何かに取り憑かれたようにベッドから抜け出すと、ランボは震える手でガタガタとタンスの引き出しを開けた。
その手は真っ先に小さな木箱にのばされる。
それを手にすると床にペタンと座り込み、蓋を開けた。
中身を見て自然と笑みがこぼれる。

「は、やく…」

小さな注射器がずらっと並ぶそれの中から適当に一本選ぶと右腕に突き立てる。
ちくりと腕が痛んだ。
ゆっくりとピストンを押すと冷たい液体が流れ込んでくる。
その液体の冷たさは妙にランボの心を落ち着かせた。

使用済みの注射器をゴミ箱へ投げ捨てると、ランボは気分が良くなる。
なんだか笑いまでこみ上げてきた。

頭は相変わらず痛いままだけど。

胸の痛みはあっと言う間に取っ払われて、気持ちいい。


先ほどの薬はランボの心に麻酔をかけた。





「アハッ、はは、あははは!」

なにが可笑しいのかだなんて分からないけど。
笑っていれば楽になると思った。












「なにしてんだ、アホ牛…!」

突然降ってきた声に振り返ると、リボーンが立っていた。
珍しく酷く焦っているような彼。
なにをそんなに焦っているのだか分からない。

「何って、お薬だよ?」

とっても、とっても気持ちよくなる麻酔なんだ。

にっこり笑って木箱を大事に仕舞おうとする。
しかし、それはリボーンの手によってひったくられた。
必死になって取り戻そうとするけれど、突き飛ばされてしりもちをつく。
リボーンは木箱を開けると注射器を一本取りだし、横にかかれているアルファベットと数字に目を通した。

「やめて、返して…!」
「テメェ、コレ、麻薬じゃねえか!」

次の瞬間には木箱は床にたたきつけられ、中の薬は床に散らばる。
それを必死に拾い上げようとするランボを力任せに押さえつけ、リボーンは後ろからランボを犯した。

「イヤッ、イヤアアァア!」





もう、もう嫌なんだ。

アンタが好きだと叫ぶ心に麻酔をかけないと。
じゃないと俺は死んでしまう。


例えば愛人の元に行った後に俺のところへ来たときの香水の香りとか。
酷く抱かれた翌朝目覚めると、アンタが寝ていたところのシーツがすっかり冷たくなっていたりだとか。
いくら好きだと言っても相手にされなかったり。


本当は、馴れてなんかないよ。

すべてに悲しくなって、苦しくなって、心が痛む。
そしてなにより。

どんなに愛しても愛してなんかもらえないって分かってるから。



それを全部分かって割り切ってつき合えるほど俺の心は強くなかったんだ。


茨の海に溺れてしまった俺の心はアンタと言う名の茨に戒められたまま。








犯されながらもどこか冷静にそんなことを考えながら、俺は目の前に転がる注射器に手を伸ばした。








end






あきゅろす。
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